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2009年09月15日

連続小説 11) アイリク

次回で最終回となります。
長い文章を読んでいただきありがとうございました(^^
次回作・・・一年前に書いた物が残っているのですが、これは相当手を入れないと載せられないな・・・ザンネン!

(本文とは以下略)
連続小説 11) アイリク

連続小説 11) アイリク

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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

11) アイリク
 少佐が目を開くと一人の女性が目の前に座っている。一見、初老と思える風貌だがその瞳には英知の輝きが見て取れる。既に人の域を脱した存在なのかもしれない。
「アイリク様ですね?」
「いかにも。その女を連れ戻しに来たのなら丁度良い。わらわと共に地上に運び出して貰いたい」
「それはお引き受けいたします。その前に個人的にお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか」
「あまり時間はかけられぬが、何じゃ?」
「アイリク様はワルキューレの里をご存じ有りませんか?」
「随分と懐かしい名を聞く。何百年ぶりであろうか。いかにも、わらわはその里の出じゃ。それがいかがした?」
「私の姉が赤子の時にワルキューレの里に連れて行かれ、カラスとなって戻ってまいりました。私は姉を元の姿に戻す術を捜しております」
「ふむ、赤子を動物の姿にか。確かにワルキューレにその様な術は存在していた。しかしそれは強力な加護と引き替えであったはず。お主の姉と引き替えに力を得た者がいるはずじゃ」
 少佐の目がアイリクを射抜くように見つめる。
「それはこの私。私こそが姉を犠牲にして力を得た者」
 アイリク、おだやかに少佐を見つめ返す。
「おぬし、ただ者で有るまい。どういう出自の者だえ?」
「クワラン王国のロイヤルガードを努めるマルティス家に生まれた者です」
 アイリク、しばらく考えていたが首を振り。
「そうか、わらわが生きていた時代、その名前の国は存在していなかったが。王家を守護する一族か。ならばワルキューレが関与しているのもうなずける」
 少佐、唇を噛む。
「おぬしの一族も、このフォルテモード家同様、世界の安定のためにその身を捧げたのだな」
 吐き捨てるように少佐が答える。
「赤子の意思を顧みずにです」
「それは一族としての契約」
「おのが子孫にその運命を背負わせる権利が誰にありましょう」
「おぬしの先祖のことは知らぬが、おそらくはそこにいるウェスト同様に死んでいく身であったはず。その生と一族の繁栄とを引き替えに、運命を受け入れたのではないかな」
「そうかもしれません。しかし、それでも何も知らぬ赤子を鳥にさせるような親は許せません」
 少佐、アイリクを睨み付ける。
「そうか。それでおぬし家を出たのか」
「はい。姉をそのままの姿にさせておくわけにはまいりません。それに」
「それに?」
「いずれ私自身が、自分の子を差し出す運命を受け入れる気も有りません」
「なるほど。しかし、世界を安定させるためには犠牲になる者も必要なのじゃ。おぬしの一族やこのフォルテモード家の様にな」
「それは大人の理屈。赤子には関わり無きこと」
「赤子とて関わり無しとは言えぬであろう。戦乱の世なら生まれる事さえ叶わなかったやもしれぬぞ」
「なんと言われようと、承伏いたしかねます」
「そうか。それならばいたし方ない。元より万人に理解してもらおうとは思わぬ。で、わらわに何を聞きたいのじゃ?」
「ただ一つ、姉を元に戻す方法を」
 自信に満ちていたアイリクの表情が一瞬崩れる。
「うーむ、元にか。すまぬが力にはなれぬ。いや、その術が有ったことは知っておる。しかし、広く使われるような術ではないし、わらわは己が覚えるべき術の習得に懸命で、それ以外の術を覚えるゆとりなど無かったのじゃ。まして術を解く方法など知るよしも」
 アイリクの首が横に振られる。少佐、肩をがっくりと落とす。
「そうですか。では、せめて何か手がかりでもご存じ有りませんか?」
「わらわが勧めるのはどうかと思うが、ワルキューレの里を尋ねるのが一番であろうな」
「ワルキューレの里……。どうすればたどり着けます?」
「すまぬが、それも知らぬ。本当じゃ。われら三人はこの地に送り出され、王家とそれを支える伯爵家二つを作り上げる事のみを使命とした。戻る道も方法も知らされてはおらぬ。元より戻れぬ定めであったしのう」
「そうですか……」
「もしかすると……。確かなことは言えぬが、共に来た三人の中でわらわが一番年下であった。他の二人なら何か知っておったかもしれぬ」
「他のお二人とは?」
「ペンザル王家とアスギン伯爵家この両家にもここと同じような施設が有り、そこに二人の魂も封印されておるはずじゃ。キャメルとリンゼイ、二人の魂がな」
「キャメル様とリンゼイ様」
 少佐、繰り返し呟く。
「わかりました。私の個人的な質問に答えていただき感謝いたします」
「ここまで来て貰った礼じゃ。おぬしとは相容れぬ部分もあるが、わらわとてかっては人の親であった。その気持ち分からぬ訳ではない。元の姿に戻れるとよいな」
「ありがとうございます。アイリク様」
「うむ」
「ここからは仕事を請け負ったスイーパーとしてお伺いします」
 少佐の顔が引き締まり、プロのスイーパーの顔に戻る。
「ほう、なんじゃ?」
「伯爵夫人の願い、聞き届けていただくわけにはまいりませんか?」
「現伯爵の命乞いか。本来ならその願い、聞き届けるたぐいの物なのじゃが聞いてやれぬ訳があるのじゃ」
「その訳とは?」
「全ては一代前の伯爵が原因じゃ」
「一代前というとソフィア様の御実父の?」
「そうじゃ。かの者はこのシステムに異議をとなえておった。そうおぬしのようにな。そして赤子のソフィアから生命エネルギーを抜くことを拒否したのじゃ。その代わり己も一切の加護を受けぬと言ってな。そう言われてはわらわも無理強いは出来ぬ。本人の気が変わるのを待つしかなかった。しかし、そうこうしているうちに本人が事故で死んでしまったのじゃ。今となっては本当に事故かどうかも判らぬがな」
「暗殺の可能性もあると?」
「わからぬ。現世の調査で事故と判断されたがそれ以上のことは知らぬ。かの者の魂はここにも居らぬしな」
「魂、ですか」
「代々の伯爵の魂はここに封印され当代の伯爵の手助けをするのじゃ。しかしかの者は全てを拒否した故ここにはおらぬ」
「なるほど」
「そういう訳で、先々代の伯爵が承認するまでの貴重な一年、ソフィアから得られるはずであったエネルギーが不足しておる。更には今の伯爵は霊的エネルギーを受け取る因子が薄い為、通常より余分にエネルギーを消費するのじゃ。結果、これ以上伯爵に割いてやれるようなゆとりは無い。判ってもらえたか」
「そういう事ですか」
 アイリク、倒れている夫人を見つめる
「その女にも何度も説明したのじゃが聞く耳を持たぬ。あげくソフィアから今以上にエネルギーを抜くことは出来ぬかと言い出したので、ついカッとなりこうなってしまった」
「ソフィア様からもっとエネルギーを?」
「先代伯爵の実子はソフィア一人。ソフィアには是非とも多くの子孫を残して貰わねばならぬ。それ故これ以上どころか逆にこちらのエネルギーを注入する必要が出てくるやもしれぬ。夫を思っての言とはいえ、後先考えぬこの者に協力してやるわけにはいかぬ」
「ふーむ。ソフィア様以外からエネルギーを抜き取る手段は無いのですか?」
 アイリクの目がかっと見開かれる。
「ばかな事を申すな。それこそ、何も知らぬ他所の赤子から勝手にエネルギーを抜けとでも言うのか? わらわは悪霊の類ではないのだぞ」
「いえ、そのようなつもりでは。例えば私ではどうです?」
「おぬしか。……、無理じゃな。おぬしには加護の結界がかかっておる」

 白い柱に向かって少佐が座りアイリクと対峙した状態でぴくりとも動かない。
 少し離れたところで初代伯爵とエディが見守っている。
「あの、伯爵」
「なんじゃ」
「あれ、どうなってるんですか?」
「どうって、見れば判るじゃろう」
「ただ固まってるだけに見えるんですが」
「なんじゃ、お主魔導は使えぬのか?」
「ええ。幸いこれまでは無関係でいられたもんで」
「しかたないのう。お主の連れが霊体を分離してアイリクと直接対話しとるとこじゃ」
「霊体分離? 少佐がそんな技を?」
「うむ。なかなかやりおる」
「で、どんな会話を?」
「初めは姉のことを色々聞いておったようだが、今は伯爵を守るためになにかしてやれることはないかと聞いておる。アイリクにそんな余分なエネルギーは無いと突っぱねられておるがの」
「非常ですね」
「まあそう言ってやるな。あれは今だけを考えて行動しているわけではないからの。そうでなければこのシステムをここまで長く維持することはできんかったじゃろう」
「六百年でしたっけ。そりゃ並大抵の苦労じゃないでしょうね。女手一つで大変だ」
「お?」
「どうしました?」
「むむむ」
「どうしたんです?」
「これは……」

 アイリクと少佐が対峙している。ふいにアイリクがエディの方を見つめる。
「あの者、その方の連れか?」
 少佐、エディをちらと見て答える。
「ええ、彼がどうかしましたか?」
 アイリク、尚もじっとエディを見つめる。
「今あの者から念を感じた。乱れのない素直な念じゃ。わらわを哀れんで居る」
「そうですか。根は素直な男なので他意はないかと」
「うむ。あの者ならあるいは……」
「え? 彼からエネルギーを?」
「無論、本人が納得すればじゃが」
 少佐、困惑した表情でエディを見つめる。


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Posted by Syousa Karas at 06:03│Comments(0)小説
 
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