ソラマメブログ
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Syousa Karas
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2009年09月17日

110primsさんの新アーマー

「楽しければ良いじゃないか」さんで紹介されてたアーマー
http://juniorknight.slmame.com/e733994.html#comments

発売元は110primsさん「ドリルとネコとプリムいじり。そしてリテイク」
http://onakagoo.slmame.com/

なかなかカコイイです(^^
1色(男性用・女性用入り)物が4つ(B,K,R,W)と、フルセット(全色版:BKRW)があり、フルセットでL$1,000
迷わずフルセット版を買いました(^^;
クラッシュシステム付き(パンツの出来がいいw)

ブラック


K(Kって何色? ナイト?)


レッド


ホワイト


修正可能なので、レッドバージョンをエディットしてみました。


ホワイトバージョンをエディット


1色版を買うのであれば白が色々変えられて面白いかも?

*110prims JUNK*
http://slurl.com/secondlife/6pi/62/78/26
入り口は見つけにくいかも?
(階段上って落ちろ!)  

Posted by Syousa Karas at 00:03Comments(0)商品

2009年09月16日

連続小説 12) 依頼完了

自称ウェンツ君


キムタク20

20%位なら似てると言われてw

あくまでも執事どす。

-----------------------------------------------------------------------------------------
『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

12) 依頼完了
 黙り込む老伯爵にエディが問いかける。
「だからどうしたんです? 判るように言って貰えませんか」
「お主、まずいことになったかもしれんぞ」
「まずいこと? どういうことです?」
「さきほどアイリクに同情というか哀れみというかそういう念を送ったじゃろ」
 身に覚えのないことを言われて慌てて否定する。
「え? いや別に念なんか送った覚えはありませんよ。可哀想だな、とは思いましたけど」
「力になってやろうかとも、思ったじゃろ?」
「まあ少しはそうですね。大変そうな女性を見ると力を貸すのは男として当然でしょ」
「それがいかんかったな」
「え?」
「アイリクはこの六百年頼りにされるだけで、助けてやろうという念を送られたことがなかったんじゃよ。そこへお主が力を貸してやろうと念じた」
「別にそんな深い考えがあった訳じゃないんですが……」
「その分邪心というかスケベ心も無かったじゃろ」
「そりゃ人形の中で六百年生きてる霊に対してスケベ心はいだかんでしょ」
「ばかもん。そういう意味じゃないわい。見返りを求めるとかそういう気持ちは無かったという話じゃ」
「親切に見返りを求めちゃいけないと、お袋に教わりましたからね」
「いいお袋さんじゃな。今度紹介してくれ」
「そんな無茶な……。」
「話し合いは終わったようじゃな」
 先ほどまで石像のように固まっていた少佐が動き出し、二人の方にやってくる。
「少佐大丈夫ですか? どうなりました?」
「うむ」
 どう説明した物か考えている少佐。
「伯爵が俺がどうとか言ってるんですが、何か関係するんですか?」
「そうか、伯爵に聞いていたか。それなら話は早いな」
「というと?」
「お前、お年寄りが道で倒れていたらどうする?」
「そりゃ助け起こしますよ」
「そのご夫人が足をくじいていたら?」
「うーん、肩を貸すか背中におぶってそのへんのベンチまで運んであげるか。車で自宅まで届けてあげるかですかね。いったいどうしたんです?」
「なるほど。見込まれるわけだな」
「見込まれるって?」
「アイリク様がお前に頼みがあるそうだ」
「頼みってなんですか?」
「その柱の下に行って座っていてくれ」
「座るんですか。それで?」
「お前の膝枕で少し休みたいとの事だ」
「俺の膝枕? なんでまた?」
「お前の力を分けて欲しいそうだ。頼みをきくのか断るのかどうする?」
「そりゃ別に構いませんけど、なんだか急だなあ。この辺でいいんですか?」
 エディが柱にもたれて座っていると腿のあたりにぼーっとした光が現れる。しばらくすると人型を取り始める。
「ばあちゃん!」
 エディの膝に年老いた祖母の姿が現れエディににっこり微笑む。
(家は商売をしていたから親父もお袋も忙しくて、子供達の面倒はもっぱらばあちゃんが見てくれていた。我が儘やいたずらでずいぶん困らせたと思うけど、いつもにこにこしていたっけ。ああそうか、こんなに小さかったんだ。髪も真っ白だったし目も良く見えてなかったんだよな)
 エディ、祖母の頭をなでながら自分も眠ってしまう。
遠くから声が聞こえる「エディー……」
「うーん、もう少し寝かせてくれよ」
「エディ、置いていくぞ」
「……」
 エディ、目を覚ます。
「ばあちゃんじゃなかった、アイリク様は?」
「満足して戻られた。お前に感謝していたぞ」
「わしからも礼を言わせて貰うぞ。あれも久しぶりに休むことが出来て本当に良かった」
「おかげで伯爵に回せるエネルギーも確保できたそうだ。これで夫人も満足してくださるだろう」
「そうだ、夫人はどうなりました?」
「残念だがまだ目を覚まされない。おそらく身を守るために自分で殻を作って閉じこもってしまわれたのだろうな」
「おこすことは出来ないんですか?」
「無理に殻を破ると精神崩壊の危険がある。すまんがお前がおぶってくれるか」
「ええ、判りました」

 エディが夫人を背負い、少佐がアイリクを抱えている。
「伯爵、お世話になりました」
「いやいや、こっちこそ世話になった。なにかあったらまた来いよ」
「それは難しいかもしれませんね。なんせ伯爵家の霊廟ですからおいそれとは近づけませんよ」
「そうか残念じゃの。それなら護符を使ってこちらからお邪魔するか」
「うへ、ほどほどにお願いしますね」
「では、お別れじゃ。そこの転送機を使えば燭台の部屋まで行けるでの」
 夫人を背負ったエディと、アイリクを抱えた少佐が床の円形部分に乗ると同時に姿がかき消える。

 最初の部屋。外へ伸びる通路が見える。突然三人とアイリクが現れる。
「お、これは……。少佐、入り口が見えますよ。便利なもんだな。最初からこれで飛ばしてくれればいいのに」
「エディ、体の具合はどうだ?」
「具合? 眠ったせいか頭がスッキリしてますが。何か?」
「妙にだるいとか、体が重いとかは?」
 エディ、夫人を背負ったままその辺を歩き回る。
「特に変わった点は無いように思います」
「そうか。ならいい。さて外へ出るか」
「ええ。行きましょう」

 入り口に戻ると大きな歓声があがる。
 医療スタッフが夫人を抱きかかえ検査に取りかかる。
 ソフィアは夫人の側に駆け寄り話しかけているが、夫人の意識は戻らないようだ。
 しばらくしてソフィアが二人の側にやってくる。
「少佐そしてエディさん、お礼が遅れて申し訳ありません。ありがとうございます。感謝いたします」
 少佐、ソフィアにアイリクを渡す。ソフィア、アイリクをしっかり抱きしめる。
「いえ、夫人のお体を心配なさるのは当然です。夫人の容態にも関連するのですが、霊廟内部で起こったことを説明させていただきたいのです。どこか部屋を用意していただけませんか」
「判りました。応接室にまいりましょう」

 広くて豪華な調度品で埋め尽くされた部屋。ソファーにソフィア、少佐、エディが座っている。ベルモントはソフィアが座っているソファーの脇に立っている。
 少佐がアイリクを抱えているソフィアに向かって手振りを交えて語っている。
「およそ、こんなところです」
 ソフィア、深々と頭を下げる。
「人形の捜索をお願いしたお二人に伯爵家の危機まで救っていただき、なんとお礼を申し上げていいのかわかりません」
「ソフィア様、顔をお上げ下さい。我々は務めを果たしたまでです。それより今後のことですが」
「はい」
「夫人の治療と伯爵の警護について早急に手を打った方がよろしいと思われます」
「少佐に考えがおありですか?」
「夫人はアイリク様の拒絶によるショックから、自らの魂に障壁を作られたと思われます。通常の治療でこれを解決するのはおそらく無理です。伯爵家に仕える魔導の者をお呼びになり、アイリク様のお力を借りることに成功し事態が収束に向かっていることをソフィア様からお伝え下さい」
「わかりました」
「伯爵の警護についてはどのような警護をお望みか伯爵、ベルモント氏で話し合われた結果をアイリク様にお伝え下さい。初代伯爵が提示された方法をベースにされるとよろしいと思います」
「承知いたしました」
「では我々はこれで失礼します。またご用が有ればいつでもどうぞ。ただし次回からは私の事務所に直接お願いします。それでは」
 少佐、立ち上がり部屋を出ようとするが急に振り返る。
「忘れていました。お預けしたカラスをお願いできますか」
「あら、そうでした。今連れて参りますね」
 ソフィア、小走りに部屋に戻ろうとする。
「いえ、それなら私がお部屋にお伺いします」
「では、ご一緒に」
 女性二人が出て行くのを見送るベルモントとエディ。
「ゴホン。ではわたくしは旦那様にご報告を」
「あ、じゃあ俺は玄関で待ってますね」

 ドールハウスにアイリクを置きほっとするソフィア。
 カラスををじっと見つめる少佐。
「具合はどうですか?」
「はい。すっかり良くなったようです。お手数をおかけしました」
 にっこり微笑むソフィア。
「アイリク様も元の場所に戻られて安心されたようですね」
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。……、ソフィア様。良ければお聞きしたいことがあるのですが」
「なんでしょうか?」
「ソフィア様はその……生命エネルギーについてはご存じですか?」
「アイリクが私から受け取っているというエネルギーの事でしょうか?」
「ご存じだったのですね」
 この部分は話して良いものかどうか判断がつかなかったので、先ほどの説明でもあえて触れなかったのだが、余計な心配だったようだ。
「ええ。お爺さまが生きていらした頃、話して下さいました。嫌なら止めても良いのだぞと」
「そうですか。それでソフィア様は何と?」
「そのままで構わないと答えました。別段不便を感じませんでしたし、それでご先祖様のお役に立てるのなら。それに私これまで病気になったことが無いんです。きっとアイリクが守ってくれてるんだと思います」
 にこやかに答えるソフィアに少佐の表情も和らぐ。
「そうですね。判りました。それではこれで失礼します。機会が有ればまたお会いしましょう」
「ええ。是非」
 微笑み合う二人。

 ぽつぽつと小雨が降り出す中、エディが運転する車は桜並木の中を静かに走っている。助手席の少佐は気が抜けたようにぼんやりと外の景色を眺めていた。濡れた桜の葉が新緑をいっそう濃くして花びらとのコントラストが鮮やかだ。
「なんだかすごい時間がかかったような気がしてましたが、まだ半日程度しか経ってなかったんですね」
「そうだな」
 視線を外に向けたまま少佐が答える。
「まあこれで10万ドルなら、あっ!」
「どうした?」
「追加料金貰うの忘れてますよ。まいったな、今から戻ったらかっこ悪いですよね?」
 少佐が普段の調子を取り戻したように、にやっと笑い答える。
「こういう時は相手から言ってくるのを待つもんだ」
「そうなんですか?」
「その方が金額が大きくなる」
「へーそういうもんですかね。普段は1ドルでも値切ろうって奴らばかり相手にしてるんで勝手が違いますね」
「期待して待ってていいと思うぞ。なにせ相手は伯爵家だからな。そうだ、取りあえず残金の4万ドルを渡しておこう」
 カバンから紙幣を取り出しエディに渡す。
「こんな大金持ち歩いてたんですか? ありがたく頂戴します。さーて、何に使おうかな」
「ギャンブルは止めておくんだな。才能があるようには思えん」
「耳が痛いな。家賃の前払いでもして大家を驚かせるかな」
「ギャンブルと家賃しか使い道がないのか?」
「いやそんなことありませんけど……、じっくり考えてみますよ。それはそうとソフィア様と何を話されたんです?」
「うん?」
「二人きりになるために応接室で説明を済ませたんでしょ?」
「なかなか鋭いな。ギャンブルに有効利用できそうなもんだが」
「ちゃかさないでくださいよ。まあ、喋りたくないならいいですけど」
「大した事じゃない。ベルモント氏に聞かれると睨まれる恐れがあったんでな」
「と言うと?」
「生命エネルギーをアイリク様に抜かれていることを知っているか聞いただけだ」
「なんて言ってました?」
「お爺さまから聞かされていたそうだ。その上で続けるかどうかもな」
「なるほど。子供といえど意思を無視してたわけじゃ無いんですね」
「そうだな。そういうやり方もあったんだな」
 少佐、カラスの背中をなでる。
「別な方法に心当たりでも?」
「そう言う訳じゃないが。ふー、疲れた少し眠る。着いたら起こしてくれ」
「判りました」
 少佐はすぐに小さな寝息を立て始める。肩のカラスも目をつぶって眠っているように見える。

 少佐が奥のデスクに座って書類を見ている。エディがドアをノックして入ってくる。
「こんちは。やー、ここはエアコンが効いてていいですね。斡旋所は蒸し暑くて、みんなひーひー言ってますよ」
「なんならお前もこの辺に事務所を開いたらどうだ」
「あはは、無理無理先立つものがありませんて」
「そうでもないんじゃないか、伯爵家から残金が届いたぞ」
「それそれ。で、いくらでした?」
「向こうは言い値を支払うと言ってきたんだがな。ここで欲張ると今後の仕事に関わるんで安めにしておいた」
「もったいないなー。そういう時は20万ドルくらいふっかけて10万で手をうつとか。まあソフィア様から既に10万受け取ってますし、あんまりふんだくるのは気が引けますけどね」
「私はお前に金を渡すのが気が引けるよ。ほらお前の取り分だ」
 少佐、薄い封筒を放る。 エディ、受け取って中を見る。
「はいどうも。うん? 随分薄いな。少佐。なんか間違ってません?」
「間違ってなんかいないさ。お前の取り分の50万ドルの小切手だ」
「50万ドル!?」
「この辺の事務所を買い取ってもお釣りが来るだろ」
「そりゃ買えるでしょうけど。いくらなんでも、ぼりすぎじゃないですか?」
「相手は伯爵家だからな、これでも大分まけたつもりなんだが」
「……」
「アパートの家賃前払いでもするか?」
「うーん、アパートごと買い取れそうですけど。困ったなー」
「何が困るんだ?」
「いやこんな大金渡されても使い道が」
「アパートを買い取ってお前が大家になってもいいだろうし、車でもスーツでも買えばいいじゃないか」
「俺が大家ですか? なんだかなー。車も今の所動いてますしね。スーツくらいは買ってもいいかな」
「まあじっくり考えろ。取りあえずは銀行に預けておけよ」
「ああ、そうですね。そうします。まずは銀行に行ってきます」

エディが出て行った室内。
「あの子いいこね」
「そうだな」
「アイリク様が気に入るのも判るわ」
「残念ながら今回大した収穫は無かったが伯爵家との繋がりも出来たし、今後に期待という所だな」
「あの子にも期待できるのかしら?」
「どうかな。アパートの大家になって、スイーパーを引退するかもしれんぞ」
「似合わないわー」
「ま、縁があればまた組むこともあるだろうよ」

 数日後、エディが以前のぼろい車を運転している。服もいつものと変わらない。
(結局金はそっくり実家に送ることにした。店も古ぼけているし立て替えにでも使ってくれと言って。それと、……少しばあちゃんの墓にも回してくれと)
 遠ざかっていく車。そろそろ初夏の日差しがまぶしくなる頃だ。

-------------------------------------------------
 お疲れ様です。長文にお付き合い頂きありがとうございました。
 感想やご意見があれば、是非コメント下さいね(^^
  

Posted by Syousa Karas at 06:03Comments(2)小説

2009年09月15日

連続小説 11) アイリク

次回で最終回となります。
長い文章を読んでいただきありがとうございました(^^
次回作・・・一年前に書いた物が残っているのですが、これは相当手を入れないと載せられないな・・・ザンネン!

(本文とは以下略)




-------------------------------------------------
『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

11) アイリク
 少佐が目を開くと一人の女性が目の前に座っている。一見、初老と思える風貌だがその瞳には英知の輝きが見て取れる。既に人の域を脱した存在なのかもしれない。
「アイリク様ですね?」
「いかにも。その女を連れ戻しに来たのなら丁度良い。わらわと共に地上に運び出して貰いたい」
「それはお引き受けいたします。その前に個人的にお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか」
「あまり時間はかけられぬが、何じゃ?」
「アイリク様はワルキューレの里をご存じ有りませんか?」
「随分と懐かしい名を聞く。何百年ぶりであろうか。いかにも、わらわはその里の出じゃ。それがいかがした?」
「私の姉が赤子の時にワルキューレの里に連れて行かれ、カラスとなって戻ってまいりました。私は姉を元の姿に戻す術を捜しております」
「ふむ、赤子を動物の姿にか。確かにワルキューレにその様な術は存在していた。しかしそれは強力な加護と引き替えであったはず。お主の姉と引き替えに力を得た者がいるはずじゃ」
 少佐の目がアイリクを射抜くように見つめる。
「それはこの私。私こそが姉を犠牲にして力を得た者」
 アイリク、おだやかに少佐を見つめ返す。
「おぬし、ただ者で有るまい。どういう出自の者だえ?」
「クワラン王国のロイヤルガードを努めるマルティス家に生まれた者です」
 アイリク、しばらく考えていたが首を振り。
「そうか、わらわが生きていた時代、その名前の国は存在していなかったが。王家を守護する一族か。ならばワルキューレが関与しているのもうなずける」
 少佐、唇を噛む。
「おぬしの一族も、このフォルテモード家同様、世界の安定のためにその身を捧げたのだな」
 吐き捨てるように少佐が答える。
「赤子の意思を顧みずにです」
「それは一族としての契約」
「おのが子孫にその運命を背負わせる権利が誰にありましょう」
「おぬしの先祖のことは知らぬが、おそらくはそこにいるウェスト同様に死んでいく身であったはず。その生と一族の繁栄とを引き替えに、運命を受け入れたのではないかな」
「そうかもしれません。しかし、それでも何も知らぬ赤子を鳥にさせるような親は許せません」
 少佐、アイリクを睨み付ける。
「そうか。それでおぬし家を出たのか」
「はい。姉をそのままの姿にさせておくわけにはまいりません。それに」
「それに?」
「いずれ私自身が、自分の子を差し出す運命を受け入れる気も有りません」
「なるほど。しかし、世界を安定させるためには犠牲になる者も必要なのじゃ。おぬしの一族やこのフォルテモード家の様にな」
「それは大人の理屈。赤子には関わり無きこと」
「赤子とて関わり無しとは言えぬであろう。戦乱の世なら生まれる事さえ叶わなかったやもしれぬぞ」
「なんと言われようと、承伏いたしかねます」
「そうか。それならばいたし方ない。元より万人に理解してもらおうとは思わぬ。で、わらわに何を聞きたいのじゃ?」
「ただ一つ、姉を元に戻す方法を」
 自信に満ちていたアイリクの表情が一瞬崩れる。
「うーむ、元にか。すまぬが力にはなれぬ。いや、その術が有ったことは知っておる。しかし、広く使われるような術ではないし、わらわは己が覚えるべき術の習得に懸命で、それ以外の術を覚えるゆとりなど無かったのじゃ。まして術を解く方法など知るよしも」
 アイリクの首が横に振られる。少佐、肩をがっくりと落とす。
「そうですか。では、せめて何か手がかりでもご存じ有りませんか?」
「わらわが勧めるのはどうかと思うが、ワルキューレの里を尋ねるのが一番であろうな」
「ワルキューレの里……。どうすればたどり着けます?」
「すまぬが、それも知らぬ。本当じゃ。われら三人はこの地に送り出され、王家とそれを支える伯爵家二つを作り上げる事のみを使命とした。戻る道も方法も知らされてはおらぬ。元より戻れぬ定めであったしのう」
「そうですか……」
「もしかすると……。確かなことは言えぬが、共に来た三人の中でわらわが一番年下であった。他の二人なら何か知っておったかもしれぬ」
「他のお二人とは?」
「ペンザル王家とアスギン伯爵家この両家にもここと同じような施設が有り、そこに二人の魂も封印されておるはずじゃ。キャメルとリンゼイ、二人の魂がな」
「キャメル様とリンゼイ様」
 少佐、繰り返し呟く。
「わかりました。私の個人的な質問に答えていただき感謝いたします」
「ここまで来て貰った礼じゃ。おぬしとは相容れぬ部分もあるが、わらわとてかっては人の親であった。その気持ち分からぬ訳ではない。元の姿に戻れるとよいな」
「ありがとうございます。アイリク様」
「うむ」
「ここからは仕事を請け負ったスイーパーとしてお伺いします」
 少佐の顔が引き締まり、プロのスイーパーの顔に戻る。
「ほう、なんじゃ?」
「伯爵夫人の願い、聞き届けていただくわけにはまいりませんか?」
「現伯爵の命乞いか。本来ならその願い、聞き届けるたぐいの物なのじゃが聞いてやれぬ訳があるのじゃ」
「その訳とは?」
「全ては一代前の伯爵が原因じゃ」
「一代前というとソフィア様の御実父の?」
「そうじゃ。かの者はこのシステムに異議をとなえておった。そうおぬしのようにな。そして赤子のソフィアから生命エネルギーを抜くことを拒否したのじゃ。その代わり己も一切の加護を受けぬと言ってな。そう言われてはわらわも無理強いは出来ぬ。本人の気が変わるのを待つしかなかった。しかし、そうこうしているうちに本人が事故で死んでしまったのじゃ。今となっては本当に事故かどうかも判らぬがな」
「暗殺の可能性もあると?」
「わからぬ。現世の調査で事故と判断されたがそれ以上のことは知らぬ。かの者の魂はここにも居らぬしな」
「魂、ですか」
「代々の伯爵の魂はここに封印され当代の伯爵の手助けをするのじゃ。しかしかの者は全てを拒否した故ここにはおらぬ」
「なるほど」
「そういう訳で、先々代の伯爵が承認するまでの貴重な一年、ソフィアから得られるはずであったエネルギーが不足しておる。更には今の伯爵は霊的エネルギーを受け取る因子が薄い為、通常より余分にエネルギーを消費するのじゃ。結果、これ以上伯爵に割いてやれるようなゆとりは無い。判ってもらえたか」
「そういう事ですか」
 アイリク、倒れている夫人を見つめる
「その女にも何度も説明したのじゃが聞く耳を持たぬ。あげくソフィアから今以上にエネルギーを抜くことは出来ぬかと言い出したので、ついカッとなりこうなってしまった」
「ソフィア様からもっとエネルギーを?」
「先代伯爵の実子はソフィア一人。ソフィアには是非とも多くの子孫を残して貰わねばならぬ。それ故これ以上どころか逆にこちらのエネルギーを注入する必要が出てくるやもしれぬ。夫を思っての言とはいえ、後先考えぬこの者に協力してやるわけにはいかぬ」
「ふーむ。ソフィア様以外からエネルギーを抜き取る手段は無いのですか?」
 アイリクの目がかっと見開かれる。
「ばかな事を申すな。それこそ、何も知らぬ他所の赤子から勝手にエネルギーを抜けとでも言うのか? わらわは悪霊の類ではないのだぞ」
「いえ、そのようなつもりでは。例えば私ではどうです?」
「おぬしか。……、無理じゃな。おぬしには加護の結界がかかっておる」

 白い柱に向かって少佐が座りアイリクと対峙した状態でぴくりとも動かない。
 少し離れたところで初代伯爵とエディが見守っている。
「あの、伯爵」
「なんじゃ」
「あれ、どうなってるんですか?」
「どうって、見れば判るじゃろう」
「ただ固まってるだけに見えるんですが」
「なんじゃ、お主魔導は使えぬのか?」
「ええ。幸いこれまでは無関係でいられたもんで」
「しかたないのう。お主の連れが霊体を分離してアイリクと直接対話しとるとこじゃ」
「霊体分離? 少佐がそんな技を?」
「うむ。なかなかやりおる」
「で、どんな会話を?」
「初めは姉のことを色々聞いておったようだが、今は伯爵を守るためになにかしてやれることはないかと聞いておる。アイリクにそんな余分なエネルギーは無いと突っぱねられておるがの」
「非常ですね」
「まあそう言ってやるな。あれは今だけを考えて行動しているわけではないからの。そうでなければこのシステムをここまで長く維持することはできんかったじゃろう」
「六百年でしたっけ。そりゃ並大抵の苦労じゃないでしょうね。女手一つで大変だ」
「お?」
「どうしました?」
「むむむ」
「どうしたんです?」
「これは……」

 アイリクと少佐が対峙している。ふいにアイリクがエディの方を見つめる。
「あの者、その方の連れか?」
 少佐、エディをちらと見て答える。
「ええ、彼がどうかしましたか?」
 アイリク、尚もじっとエディを見つめる。
「今あの者から念を感じた。乱れのない素直な念じゃ。わらわを哀れんで居る」
「そうですか。根は素直な男なので他意はないかと」
「うむ。あの者ならあるいは……」
「え? 彼からエネルギーを?」
「無論、本人が納得すればじゃが」
 少佐、困惑した表情でエディを見つめる。
  

Posted by Syousa Karas at 06:03Comments(0)小説

2009年09月14日

連続小説 10) 初代伯爵

ヨシツネさん。二本の刀を振り下ろすアクションがかこいいです(本文とは、以下r)






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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

10) 初代伯爵
 霊廟内にぽっかりと空いた空間。
 中央に大きな白い柱があり巨大な空間を上下に貫いている。
 エディ、下を覗き込んで叫ぶ。
「少佐~!」
「耳元で叫ぶな」
「え?」
 エディの足下に少佐がぶら下がっている。手首から細いロープが伸び壁に張り付いているのが見える。
 エディ、手を伸ばして少佐を引っ張り上げる。
「大丈夫ですか?」
「ああ。脚を咬まれたが骨折まではしていないようだ」
「びっくりしましたよ。高いストッキングが役に立ちましたね」
 緊張がほぐれたせいで顔がにやけてしまう。
「あいつはどうなりました?」
「途中までは落ちていったんだが、急に消えたように見えたな」
「消えた?」
「管轄外なのかもしれん」
「縄張りみたいな?」
「そうだ。あいつ自身、システムにとってはイレギュラーな存在なんだろう」
「消えてくれてることを祈りますよ。下についたらバッタリってのはごめんです」
 少佐が多少脚を引きずりつつも、二人で階段を足早に降りていく。しばらく降りると床が見えてくる。ここも霊廟同様、壁全体が発光しているようだ。
 更に降りると、柱の影に女性の服が見えエディが指さす。
「少佐あそこに」
「よし、私から離れないように注意しろ。いくぞ」
 少佐が女性に駆け寄り脈を確認する。エディは周囲を確認する。
「犬は見当たりません。この女性が伯爵夫人なんですかね?」
「おそらくそうだろう、他の人物がここに入ったという話は聞いていないし、入る資格を持った者もいないだろうからな」
「では、お前達は資格を持っているのかな?」
 突然聞こえた声にエディが腰の銃に手を伸ばす。
「よせ!」
 少佐が片手でエディを制す。顔は突然現れた老人を見ている。
「あなたは?」
「わしはここの住人じゃよ。伯爵だ」
「TVで見たお顔とは異なるようだが」
「ん? ああ、今の伯爵というわけではない。そうだな、ざっと六百年ほど前になるかの」
「……。初代伯爵ウェスト・フォルテモード候ですか?」
「ふぉふぉふぉ、良くわしの名を知っておったな。お主護符を持っておるようだが何者じゃ?」
「伯爵令嬢ソフィア様の依頼を受けて、夫人を救出に来たスイーパーです」
「なるほど。ソフィアが寄こしたのか。あれは決断力のある娘だ」
「ええ、いざとなったらこの施設を破壊してでも夫人を救出するよう依頼されています」
「わっはっはっ、さすがわしの子孫じゃ。ところでお主、わしの言うことを素直に信じるのかね?」
(おっと。俺が思ってた疑問を当の本人が質問してくれた。六百年前の伯爵? それじゃ本物のゴーストだ!)
「いささか、魔導についての知識がありますので。この施設とアイリクと呼ばれる人形、そしてドールハウスですね?」
「うむ、そうか魔導の知識がな。それならば話しやすい」
「お話の前に確認したいのですが、夫人の容態は急を要する物ではありませんか?」
「ああ、ちょっと無理をして意識を失っておるだけじゃよ。それも可哀想な娘でな。正直お前達が来てくれて助かった。話が終わったらここから連れ出しておくれ。アイリクも一緒にな」
 伯爵が指さす先に柱のくぼみがあり、そこにすっぽりと人形が埋まっている。
「さて、その護符だが実は大したことはない。それ、そこの坊やにも一枚やろう」
 伯爵がエディに護符を渡す。
「これは、どうも……」
「お主にも一枚やろう。今持ってる分はソフィアに返してやってくれ」
「もちろんお返しします。しかしいいのですか? 我々部外者がこのような物をいただいても?」
「ああ、構わんよ。大した力はないがまあ、ここまで来てくれた礼だと思ってくれ。他にやる物もないしの」
(なんだかざっくばらんなゴーストだ。本当に元伯爵なのか? うちの爺さんと同じような喋り方だぞ?)
「さーて。かいつまんで話をするとこの施設は全てアイリク、その人形ではなく人間でわしの妻だった女が作った物だ。正直わしには詳しい仕組みとかは判らん。判っておればその娘の力にもなってやれたんだが」
 伯爵は夫人を哀れみの目で見つめ、ため息をつく。白い柱を見ながら話し始める。
「この施設は伯爵家を、ひいてはこの国を守るための大事な仕掛けだと言っておった。この石碑には代々の伯爵の魂が眠っておる。そしてその人形を介して伯爵家の跡取りとの間でエネルギー交換をする。そういう仕掛けだそうだ」
「伯爵家の跡取りとですか?」
「うむ。子供、特に赤子というのはエネルギーの塊だそうでな。我々にエネルギーを分け与えても己の成長には支障がないそうだ。しかし、直接やり取りをするとエネルギーの流れが一方通行になり、結果我々が赤子を取り殺すことになるんだそうじゃ。そこでその人形を仲介することでエネルギーの流れを制御する、とこういうわけだ。ここまではいいかの?」
「ええ、お話をお続け下さい。わからない点は後でまとめて質問させていただきます」
「よしよし。跡取りから取り出した生命エネルギーは人形を介してドールハウス、つまりその石碑の上部に貯まり、必要に応じて人形がそれを我々に与える。我々は人形の求めに応じて霊的エネルギーを与え、人形がそれを跡取りに与える。これが基本的なシステムじゃ。新しく跡取りが生まれれば人形はその赤子に引き継がれ、それまで人形にエネルギーを与えていた者には護符が与えられる。護符はまあ簡易的な端末といったところじゃな」
(この柱の天辺にドールハウスがあるって事か? じゃあここはソフィア様のお部屋の真下? 簡易的な端末?)
 六百年前の幽霊にしては今風なことを言うなと思い、つい口に出してしまう。
「簡易端末……」
「うむ。お主らもそれを使えば我々を呼び出すことが出来るぞ」
「え、伯爵をお呼びするんですか?」
「あはは、これでも少しは役に立つんじゃぞ。そうじゃな、回りに敵意を持った者がおらぬかとか、部屋に危険な罠が仕込まれていないかとか、スープに毒が混入していないかとか、要するに危険が迫っていないかを事前に察知できるのでそれを回避するのに役立つということじゃな」
「そう聞くとなんだかありがたい物のようですね」
「まあせいぜい有効に使ってくれ」
 俺たちの軽口に少佐が割ってはいる。
「伯爵。よろしいですか?」
「なんだね?」
「夫人は何のために人形を持ち出してここにやってきたのかを、教えていただけませんか」
 伯爵ため息をつく。
「自分の夫つまり今の伯爵を助けてやって欲しいということじゃった」
「当代の伯爵を助ける為に?」
「うむ。もちろん今の伯爵にもその護符は与えておる。しかしな、今の議会には彼に敵意を持つ者が多いのじゃよ。加えて毒物も複雑化しておっての。ある部屋の空気を吸った者が別の部屋に用意されている水を飲んだり食事をすると毒が活性化し、太陽の光を受けることで毒性が変化すると、こういった具合じゃ。我々としては、その部屋に入るなとかその部屋で飲み食いしてはいかんとかの注意は出来るが、他の者達が平然と話をしたり食事を取っている中、伯爵だけが避けているようでは臆病者のそしりを免れん。毒と知りつつその中で生活を続けているうちに次第に伯爵の体は蝕まれておるのじゃよ」
「何とかならないのですか?」
「そう言ってその娘もここにやって来たわけだが。一つには伯爵の回りの空気を全て正常化するような障壁を作る。二つには伯爵の体に解毒機能を付与する。三つ目としてドールハウスに蓄えている生命力を伯爵に注入する。などが考えられるわけだが……」
「何か問題でも?」
「我々には意識はあっても現世に影響を与えることはできんということだ。それができるのはその人形に封じられているアイリクの魂だけじゃ」
「アイリク様の魂が人形に?」
「ああ、言ってなかったかの。我々同様アイリクもその魂を現世に残したのじゃよ。その人形にな」
 全員の目がアイリクを見つめる。
「この人形に」
「ああ、そう伝えたところ人形を持って再びここにあらわれたのじゃ」
「それで人形をソフィア様の部屋から持ち出したのですね」
「そう言うことじゃの。その場所にセットしアイリクの魂を呼び出したまでは良かったのじゃが。度重ねた交渉もとうとう決裂、アイリクから厳しい拒絶をくらって気絶したというわけだ。女は女に厳しいからのう」
「……。私がアイリク様と話をすることは出来ますか?」
「お主がか? 人形に封ぜられた魂を呼び出す術を知っておるのか?」
「多少の心得はあります。アイリク様の方法とは異なるかもしれませんが」
「ふーむ、それならやってみる価値はあるかもしれんが、そこの坊やが二人の女性を担ぎ出す羽目になるかもしれんぞ?」
 エディ、ごくっとつばを飲み込む。
「俺なら大丈夫です。体力には自信がありますから、無事連れ出して見せます」
「その時はよろしく頼む」
「ふむふむ、良い心がけじゃ。男はそうでなくてはの。それでお主アイリクを呼び出してなんとする? その娘に説得できなかったものを、お主が説得するというのか?」
「当事者でないが故に妥協点を見つけやすいということがあります。それと、個人的にアイリク様にお聞きしたいこともありまして……」
「ふむ、まあよかろう。やってみるがよい。そこの坊や、もちっとこっちに来んと女同士の争いに巻き込まれるぞ」
 エディ、あわてて伯爵の近くに避難する。
 少佐がアイリクの前にひざまづき呪文を唱える。わずかに人形が光っている。少佐までもが人形になったかのように固まったきり微動だにしない。
  

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2009年09月13日

連続小説 9) 霊廟

今回も長いぞw
我慢して読んでね。

こないだのB@Rさんのトレハンで頂いた犬AVです。


こっちはこの間復帰したATLUSさんのケルベロス




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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

9) 霊廟
 霊廟前に行くと周りを屈強な警備員が厳重にガードしていて、少し離れたところで医療スタッフが待機している。
 少佐とエディは車から取ってきたリュックを背負っている。
「では行って参ります。何か伝え忘れた事はありませんか?」
「少佐。関係ないかもしれませんが、これをお持ち下さい」
「これは?」
「アイリクと共に伯爵家に代々伝えられる護符です」
 ベルモント、驚いてソフィアを押しとどめようとする。
「お嬢様、それをお渡しするのはいかがなものかと」
「いいのです、ベルモント。少佐達に何かあればお母様も戻ることが出来ないのですから。全てお任せします。もし……」
「もし?」
「霊廟を破壊する必要があるのなら、破壊してしまって構いません」
「お、お嬢様それは……」
「いかに歴史有る建物とはいえ所詮は物です。人の命には代えられません。責任は私が取ります」
 少佐、しばらく令嬢を見つめ、優しい表情で返事をする。
「判りました。全力を尽くします」

 入り口にビーコンを設置し、携帯ライトと無線を確認して慎重に霊廟内に進入する。
 しばらく進むと小さな部屋に出る。壁には八つの燭台が並んでいる。
「右から二番目でしたね。火を付けますか?」
「私がやろう」
 燭台に火を付けると、あっと言う間もなく少佐の姿が消える。
「少佐? どこです?」
 エディ、辺りを見渡し声をかけるが返事がない。
 辺りを捜索しようとしたとき、無線機から声が聞こえてきた。
「私の声が聞こえるか?」
 すかさずエディが返事をする。
「ええ、聞こえます。どこですか?」
「さあな。ここからはビーコンの位置が確認できない。そっちはどうだ?」
「さっきと同じです。入り口にあるのが見えます」
「ふむ。すると飛ばされたのは私だけと言うことになるな」
「私も燭台に火を灯してみますか?」
「火は消えたのか?」
「いえ、まだついています」
「ではそのまま待機しろ。火が消えたら五分待ってから火を付けろ」
「どうしてまた?」
「私が仕掛けを作るならそうするからだ。側にいたお前が一緒に飛ばなかったと言うことは、敵と一緒であることを考慮しての仕掛けだろう。直ぐに火を消して付け直したりすると敵と判断される恐れがある。火が消えるのを待つんだ、いいな」
「判りました」
「下手に動くなよ。別の仕掛けが動いてしまう可能性があるからな」
「了、了解しました」
 部屋に続く別の通路から獣の声が聞こえて来る。緊張して辺りを見回す。
 しばらくすると燭台の火が消える。
「少佐。今、火が消えました。これから五分待ちます」
「了解。飛んだ先に私の口紅が置いてあったら同じ場所だと思って良いだろう。拾って真っ直ぐ進め」
「く、口紅って例の爆弾ですか?」
「細かい事を気にするな」
(細かい事って言われても……。踏んづけでもしたらどうするんだ)
 時計を見て火を付ける。一瞬回りの景色がぼやける。
 足元に口紅が置いてあるのが見えた。
「少佐、口紅を見つけました。拾って前進します」
「了解」
 口紅をそっとポケットに入れ通路を進む。
 しばらく進むと行き止まりにぶつかる。回りの壁を調べるが何もないようだ。
「少佐、行き止まりです」
「む、そうか。私が先に進んだのがまずかったようだな。よし、戻るから待機しててくれ」
「了解。これはどういう仕掛けなんですかね?」
「多分、フェアリーモードがかけてあるか令嬢から預かった護符を持った者がいないと先に進めないのだろう」
「フェアリーモードってそんな昔からあったんですか?」
「逆だろうな。先に伯爵家の者を識別する仕掛けがあって、後からそれに反応するフェアリーモードが開発されたと考えるべきだな」
「なるほど。それなら俺達もフェアリーモードをかけて貰えば良かったですね」
「ははは、遠慮するよ。そう簡単にかけたり外したり出来るようなら敵方に利用されかねんからな。下手にかけて貰うと一生外れないかもしれんぞ」
「そうか、誘拐されて外されたりしたら追跡できなくなりますもんね。でも、かかったままでも俺たちには都合良いんじゃありません? カメラに写らずに行動できるなら」
「そのまま生きていられたらだろ。ベルモント氏が放置するとは思えん」
「……。そうそう都合良くは行かないってことですね」
「それが人生って奴だな」
 どこかで聞いたような教訓だ。
 すっと壁の中から少佐が現れる。
「お、そこが通れるんですか」
 少佐に口紅を返す。
「おそらく事前に登録された者か、特殊なアイテムを持った者が触るとファントム化するとか、そういう事だろうな」
「ゴーストの次はファントムですか、やれやれ」
「急ぐぞ」
 少し歩くと少佐が立ち止まる。
「ここから十メートルほど進んでもらえるか」
「え? ああ、はい判りました」
「どうだ?」
「怪しげな横道が有りますね。ちょっと見逃してしまいそうな感じの」
「よし戻ってくれ。次に私と一緒にゆっくり進むぞ。ライトを消してな」
 ライトを消し二人並んで進む。
「おや?」
 壁自体がぼんやり発光し道を照らしている。
「これって?」
「どう見える?」
「前方の道が明るく照らし出されていますね。そのせいでさっきの脇道が余計に気づきにくくなってます。怪しいですね」
「この施設の本来の目的は何だ?」
「本来の目的?」
「本来ここには伯爵かその一族の者しか入れない事になっている。侵入者の可能性があるから罠は仕掛けてあるだろうが、伯爵家の者が罠にかかってしまっては本末転倒だろう」
「そりゃあそうですね」
「途中転送措置や壁が有ったが、伯爵家の者なら迷うことなくここまでたどり着けたはずだ」
「俺と違って護符を持っている少佐はすんなりここにたどり着いたって事ですね」
「そうだ。その前提でこの道をどう見る」
「伯爵家の者なら真っ直ぐ進むかと」
「では我々の進む道も決まったな」
 エディ、前進しながら尋ねる。
「少佐」
「うん?」
「どうして、俺に確認させたんですか教育のためですか?」
「勉強になったか?」
「まあ、そうですけど。なんかこう子供扱いされてるような……」
「そう気にするな。さっきのは私だけでは判断できなかったからだ」
「判断できなかった?」
「私は護符を持った状態でしかいられない。つまり護符を持っていない者にあの道がどう見えるのかは判らないということだ。加えて私はプロのスイーパーだから、伯爵家の者のように見ることも出来ない。さっきの道だが、私には前方が光って見えたし脇道にも気づいた。どちらも罠に見えるので判断しかねていたのさ」
「俺だけだと前が光って見えなかったから、光る方向が伯爵家の人間へのメッセージって事ですね」
「そういう事だ」
「ははは、俺も役に立ってたんですね」
「納得したか?」
「ええ。ここに入ってから待ってるばかりで、少佐の後を追いかけるだけでしたからね。実のところ少佐の足手まといで時間を取らせてるだけなんじゃないかと」
「護符が一枚しかないのだからしょうがないさ。お前が護符を持って先に進んでいたら、私が今のお前と同じ事をしていただけだ」
「そう言って貰えると気が楽になりましたよ」
 少佐の足が止まる。
「どうしました?」
 少佐、唇に人差し指をあてる。正面の暗闇にかすかに光る眼。
 人間の身長ほどの犬が現れ通路を塞ぐ。
 二人、数歩後ずさりする。犬は動かない。
「襲ってくる気は無さそうだな」
「番犬ですかね」
「少し様子を見てみるか」
 少佐、時計を見る。
「10分ほどたったな」
「なにもおきないですね」
「これはおそらく独立系の防犯装置だな」
「独立系?」
「今までの防犯装置は一つのシステムで制御されていたと思えるが、これは別の制御系。独自の判断で動いている様に見える」
「というと?」
「我々を足止めしたいのなら壁を出せばいいし、護符を持っている者だけを選別したいのなら強制転送を使えばいい。」
「今までに出くわした仕掛けですね」
「うむ。同じシステムならわざわざこいつを出す必要は無いだろう」
「こいつの仕掛けはともかく、このまま待っててもらちがあきませんよ」
「そうだな。夫人の身が心配だ。とはいえ、どう対処するのが正しいのか……。考えられるのは、こいつ自身が正しい道を案内する係だと言うこと。もしくはこいつは誰かの指示を待っているか。あるいは自力でこいつを突破するか」
「突破ですか」
「伯爵一族がこいつと戦うというのは不自然だし。道案内ならソフィア様が聞いていそうなものだ。イレギュラー対策と考えるべきかもしれん」
「イレギュラー対策?」
「予想外の出来事が起きた場合の処理系という事だ。ここは本来伯爵一族以外は出入りしない前提で作られているはずだ。よしんば外部の人間を招き入れるとしても一族の人間が案内するだろう。ところが、今ここには一族の人間がいない。そこであいつが出てきて我々を足止めし、誰かの指示を待っている。そう言うことだ」
「誰かの指示って、こんなところに誰かくるんですか?」
「一族の人間が追いついて来るか、あるいはシステム管理者……」
 少佐、考え込むような表情になる。
「システム管理者?」
「この霊廟全体を仕切っているもの。そうか、これはまずいかもしれん。」
「どうしたんです?」
「アイリクだ」
「え? アイリクって、盗まれた人形の?」
「うむ。ここの管理者はおそらくアイリクだろう。」
「ええ? 人形が管理者ですか?」
「だからこそ代々引き継がれて来たんだ。あのドールハウスが敷地全体のモニター装置でアイリクがその監視者だとしたら」
「じゃあアイリクが我々を通してくれるのを待つしかないんですか?」
「いや。今アイリクはあのドールハウスにはいない。伯爵夫人の手によってこの霊廟の中に閉じこめられてしまったんだ。だからいくら待ってもアイリクの助けは期待できないだろう」
「ちょっと待ってください。アイリクがここの管理者で丁度ここにいるのなら何の問題も無いのでは?」
「金庫の鍵を持った本人が金庫に閉じこめられている。そういう状況だと思え」
「ええ!? そう言う事になっちゃうんです?」
「ソフィア様の言葉を思い出せ。アイリクは本来、自力でドールハウスに戻る力を持っているはずだ。それが一週間経っても戻って来ていない。この霊廟内ではアイリクの力が制限されている可能性が高い」
「そんな事があるんですか? いったいどんな目的で」
 少佐、考え込む。
「そうか」
 少佐、少し道を戻り目を閉じる。しばらくして、ポケットから何かを取り出し床に置きぶつぶつ呟く。炎の様なものがゆらめく。
「あのー。何やってるんです?」
「やはりな。ここには魔法障壁が張られている」
「え? 魔法?」
「魔法による透視や転送を防ぐための障壁だな。だからアイリクは自力でドールハウスに戻る事ができないんだろう」
「なるほど。って、それを確認したって事は……」
「人並みには使えるつもりだ」
「人並みって、俺魔法なんて使えませんけど?」
「必要があったから覚えただけだ。気にするな」
「はあ。そういうもんですか……」
「問題はあの番犬を動かす事ができそうなのはソフィア様しかいないって事だな」
「ええ?」
「伯爵はしばらく戻れないと言っていただろう。そして夫人とアイリクはこの奥。残るはソフィア様ただお一人」
「でもソフィア様は」
「ベルモント氏が許さないだろうな」
「じゃあどうすれば?」
「強行突破しかないだろう」
「強行突破」
 エディ、ゴクッと唾を飲む。
「幸い霊廟内部に閉じた魔法は使えるようだから。あいつを足止めしてその横を駆け抜ける。遅れるなよ。いつまで足止めできるか判らんからな」
「え? 倒すんじゃないんです?」
「あいつを倒したらもっと強い奴が出てきました。じゃ洒落にならんだろう。第一倒せる保証もない」
「なるほど」
 少佐、リュックから筒状の武器を取り出す。
「まず、これで粘着剤を撃ち込む。その後、魔法で粘着力を強化するから。お前はその間に向こう側に走り抜けろ」
「少佐、それは?」
「ガス式のグレネードランチャーだ」
「そんな物も持ち込んでたんですか」
「何があるか判らんと、言っておいただろう。これなら熱源で発射元を察知されにくいし、ガス弾やゴム弾で相手を殺傷せずに済むから上流階級の仕事に向いている」
「なるほど」
「お前も一つ用意しておくといいぞ」
「えーと、そうですね」
(アホみたいな返事をしてしまったが、生きて帰れたら買っても良いかもしれない)
「眼をつぶれ」
「え?」
「発光弾を使う。眼をやられるぞ」
 少佐、ボールを犬に向かって放る。犬の手前で割れ、風船が飛び出す。犬は怪しんで見ている。
 風船はゆらゆらと上昇し、天井付近で爆発する。辺りが強い光で包まれる。
 即座に少佐が四発の粘着弾を発射し、犬の脚を封じる。
「走れ!」
 エディ、一直線に犬の横を駆け抜ける。
 犬はエディには興味を示さず少佐を睨んで唸っているが脚は動かないようだ。
 少佐が呪文を唱えると、犬の脚に付いた粘着剤の色が変化する。
 間を置かずに少佐が犬の横を走り抜ける。犬が口で噛もうとするが届かない。
 犬の真横を通り過ぎ少佐の視界から犬の姿が見えなくなる瞬間、尻尾が背後から少佐を狙う。
「尻尾!」
 尻尾が当たるかと見えた寸前、回転して危うくかわす。
「走れ! 効果がいつ切れるか判らん」
 そう言うとスピードを緩めることなくエディの横を走り抜ける。慌てて少佐の後を追いかけるエディに犬の遠吠えが聞こえてくる。

 エディがぜいぜいとあえいでいる。少佐も肩で息をしている。
「お、おってきませんね。ふっふっ、も、もう大丈夫でしょうか?」
「わからん。急ぐにこしたことはあるまい。終着点が判らないんだからな」
「そ、そうですね。行きますか」
 二人、歩き出す。しばらく進むと曲がり角が見える。
 角を曲がるといきなり視界が開ける。巨大な空間が目の前に広がっている。
 よく見ると、中央に大きな白い柱が上から下まで伸びている。あれが折れたら天井の岩が落ちてくるのだろうか?
 周囲の壁を階段が螺旋状に下に続いている。ここが階段の最上段にあたり上には登れないようだ。
「うぉ! 深い!」
「やっとついたようだな」
「これを降りろって事ですよね」
 音もなく、先程の犬が少佐に飛びかかる。
「少佐!」
 少佐と犬がもつれ合って巨大な縦穴に落ちていく。
  

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2009年09月12日

連続小説 8) ドールハウス

ラファエルさん(本文とは関係ありません・・・)






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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

8) ドールハウス
「どうぞ、お入り下さい」
 古めかしい立派なドアの前でソフィアが立ち止まり、二人のスイーパーを中に招き入れようとしている。
「あの俺、じゃない私はここで待ってましょうか? ご令嬢のお部屋に入るのは気が引けますので」
 遠慮がちなエディの申し入れに、笑みを浮かべて首を振るソフィア。
「いいえ、ご一緒にどうぞ。調査のためにいらしたんですもの。気になさらないでください」
「そうですか? それでは、失礼して」
 部屋に入るなりエディが立ち止まる。
「な、なんですかこれは?」
 そこには巨大な屋敷の模型が鎮座していた。
 プールほどもある白い大理石の台座の上には、子供なら中に入れるだろうと思われる屋敷の模型が設置され、その周囲には様々な木々や花畑なども再現されている。
 昨日ソフィア様がドールハウスを持ち出そうとした跡がなかったとおっしゃっていたが、これを持ち出そうと思ったら相当でかいトラックと数台の重機が必要になるだろう。それとも、中央の屋敷部分だけをドールハウスと呼ぶのだろうか? それにしたって人手だけでは無理に違いない。
「これがアイリクのドールハウスです」
「ドールハウスってこんなにでかいものなんです? それにハウスというより、この敷地全部の模型のような?」
「ええ、初代伯爵時代の敷地を再現した物らしいです。生まれたときから目にしているのでさほど気になりませんが、やはり大きいですか?」
「ええ、そりゃあもう。俺の部屋より広いですよ。こんな大きい物見たことあります?」
 そう言って少佐の方を振り返ると、瞬きもせずじっとドールハウスを凝視している。
「少佐?」
 少佐は微動だにしない上に、肩のカラスが小刻みに揺れている。
「少佐、カラスの顔色が悪いというか具合が悪そうですよ?」
 その言葉で我に返ったのか、カラスにそっと手を添える。
「すまない。あまりに立派なドールハウスだったので、つい見入ってしまった」
 そう言うと何事もなかったかのようにソフィアに向かって話しを始めた。
「ソフィア様、アイリクは普段ここに置いてあったのですね」
「ええ、そうです。この場所で私と屋敷を見守ってくれていました」
 ソフィア様が屋敷全体を見渡す位置を示す。どうやらアイリクは建物の中ではなく外に置かれていたようだ。となるとやはりこれ全部がドールハウスということなのだろう。
「しかし、とんでもなく立派なものですね。博物館でもお目にかかった事がないですよ。少佐が見入るのも判るなあ。中の人形もまるで生きてるかの……」
 一瞬、屋敷の中の人形と目が合ったような気がして瞬きする。よく見ようとして身を乗り出すと人形の姿は無くなっている。
「あれ? 中の人形がどっかにいっちゃいましたよ?」
「ええ、このドールハウスには色々な仕掛けが施されていて中の人形も動くのです。ほらこっちの部屋からでてきました」
 手に何かを持った人形が部屋からでてきて別の部屋に向かっていく。
「すごいですね。こりゃあいくら見ていても飽きないや。ねえ、少佐?」
「……、ああそうだな。ソフィア様ありがとうございました。この部屋と霊廟はどの辺りになりますか?」
「このお部屋はこの辺りですね。霊廟はこのドールハウスにはないのですが、丁度この辺りかと思います」
 ソフィアがドールハウスの中心部と外の空間を続けて指し示す。
「なるほど判りました。ところで、この部屋の下はどうなっていますか?」
「下? といいますと?」
「このお部屋の下に別のお部屋は有りますか?」
 ソフィアしばらく考える。
「いえ、この下に部屋は無いと思います。別の部屋には地下室があるところもありますが、ここには無いはずです」
「判りました。ではそろそろ霊廟に向かいましょうか。ところでソフィア様お願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
「どうもこのカラスの具合がすぐれないので、ご迷惑でしょうが霊廟にいる間預かっていただけないでしょうか」
「ええ、もちろん。獣医の先生をお呼びしますので見て頂きましょう」
「いえ、疲れているだけのようなので、よろしければここで眠らせてやって頂けませんか。いたずらをするような奴ではありませんので」
「それでよろしければ、どうぞこちらに」
 止まり木になりそうな椅子の背もたれにカラスを止まらせ三人は部屋を出る。
 部屋の外にはベルモント氏が待っていた。早速少佐が問いただす。
「調べは付きましたか?」
「はい」
「どなたでしたか?」
 沈黙するベルモントをソフィアが促す。
「いいのよ、ベルモント。私にも察しがつきました。お母様なのね?」
「……。仰る通りでございます」
 少佐が軽く頷き更に質問を続ける。
「それで夫人は人形をどこに? 霊廟ですか?」
「はい、その通りでございます」
「なるほど。それでは夫人は人形を取りに再び霊廟に向かったと考えられますね。そして何らかの事情で戻れなくなったと」
「そのように思われます」
「では霊廟の中で夫人と人形を探すことになりますが、何か注意することはありますか? 人形の目に触れない以外に」
 間をおかずにソフィアが答える。
「中に入ってしばらく進むと複数の燭台が並んだ部屋につくと聞いております。季節によってそのうちの一つにだけ火を灯すようにとも。今日の日付ですと、右から二番目の燭台になります」
「それはどなたから?」
「母から聞きました。母はお爺さまから教えて頂いたと申しておりました」
「なるほど、それは重要な手がかりですね。全ての罠が無効になるとか、そういう仕掛けかもしれません」
 少佐、じっとソフィアを見つめる。
「ソフィア様。失礼を承知で一つお約束をお願いできますか?」
「はい、なんでしょう?」
「霊廟から出てきた後、我々に手出しはしないと約束していただきたいのです」
 きょとんとした表情を浮かべるソフィア。
「それはもちろん。そのような事は決していたしません」
「伯爵家の名誉にかけて誓っていただけますか?」
「伯爵家の名誉に誓って、あなた方に危害を加えるようなことはしないとお約束します」
「ありがとうございます。申し訳ありませんが、ベルモント氏にも伯爵家とソフィア様の名誉に誓っていただけないでしょうか」
 ベルモントの顔がぴくっと引きつる。
「ベルモント? 私の誓いに不満があるのですか?」
「いいえそのようなことは。伯爵家とソフィア様の名誉に誓って、お二人が無事奥方様を救助なさったあかつきには決して危害を加えないと誓います」
「少佐、これでよろしいでしょうか?」
「結構です。大変不躾なお願いを聞いていただいて感謝します。それでは霊廟に向かいましょう」
  

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2009年09月11日

連続小説 7) 伯爵家

今回も長いよ! 分けた方が良かったかな?

ベルモント氏のイメージは天野喜孝さんが描いた渋いおじさんなんですが、どこで見たのか忘れてしまいました(><
代わりにDさんをw


天野喜孝さんはグインサーガ、吸血鬼ハンターD、ファイナルファンタジー等のキャラデザインをされている方です。
ご本人のHPギャラリーでこれまでの作品の一部を見ることが出来ます。
http://www.so-net.ne.jp/amano/gallery/index.html
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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

7) 伯爵家
 翌日、早朝の少佐の事務所。
「おはようございます。あれ少佐まだ着替えてないんですか?」
「着替えとはなんだ? それよりお前その格好どうしたんだ?」
「え、やだなー伯爵家に行くからにはそれなりの格好をと思って。少佐は普段着で行くんですか?」
 きっちりとスーツを着込んだエディを見て少佐があきれ顔で答える。
「あのなあ。別にパーティに紛れ込む訳じゃないんだぞ。動きやすい服でないと何があるか判らんだろ」
「何かって、今回は荒事は無しじゃ?」
「相手次第だな。昨日のガード連中が向かってきたらそうも言ってられんだろう」
「まいったな。これ一張羅なんですよ。汚したくないのに」
「まあいい。そうなったら新しい服が買えるくらいの料金は追加して貰えるだろうよ」
「お、それもいいですね。この服もそろそろ買い換え時だとは思ってたんですよ」

 市街地を見下ろす丘の上の広い道路をエディが口笛を吹きながら運転している。
「ガキの頃、ここには何があるんだろうかと疑問でしたよ。なんせ町中どこにいても見えますからね。もっとも、そのうち存在自体が気にならなくなりましたけど」
「庶民には関わりのない場所だからな」
「ええ、もうバリバリの庶民ですから。なんだか気持ちの良い場所ですね。道路も広いし街路樹も立派だ。これなんて木ですか?」
「桜だな。これは桜門に通じる道だから、屋敷まで桜並木が続いているはずだ」
「桜ねー、綺麗なもんですね。他にも入り口があるんです?」
「門の数は八つと聞いている。他に隠し門もあるんだろうがな」
「八つに隠し門ですか。庶民には関わりない話ですね」
 車の周囲を薄いピンク色の桜の花びらが舞う。
「なんだか穏やかな気持ちになりますね。浮き世を忘れるというか」
「ずいぶん気に入ったようだな」
「普段、花なんて見ませんからね。いや、アパートの前になんか咲いてたような気も? もちろん、こんな立派なもんじゃありませんけど」
「気をつけろよ。ぶつけでもしたら、今回の仕事料が吹っ飛ぶぞ」
「うへ、やばいやばい」
 しばらく黙って運転していたが、うっすらと眠気が襲ってくる。何か話でもしていないと仕事料をふいにしてしまいそうだ。
「ところでちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「少佐、以前はカラスって呼ばれてましたよね? なんでまた少佐と呼ばれるようになったんです? あ、言いたくなければ別にいいんですけど」
 少佐の方を見ると黙って桜を見つめている。まずいことを聞いたかなと後悔しだした頃ふいに喋り始めた。
「ある仕事で大人数同士の撃ち合いになってな。相手方の中に以前私の部下だった者がいたんだ。そいつは私を見つけると思わず飛び出して少佐と叫んだ」
「それは、よっぽど懐かしかったんでしょうね」
「そうだな。しかし撃ち合いの最中に飛び出したんじゃ格好の的だ。敵から見れば降伏するように見えたのかもしれん」
「それじゃあ……」
「ああ。どちら側の弾かはしらんがその場で撃たれた」
 エディ、気まずそうな顔をする。
「それは……」
「で、どう話が伝わったのか知らんが私がそいつを撃った事になってな。私を少佐と呼ぶと撃ち殺されるという噂が広まって今に至るわけだ」
「え、じゃあカラスと呼んだ方がいいですか? 俺そんな話知らなくて」
「構わんよ別に。少佐と呼ばれるようになってからの方が仕事も増えたし、このカラスに手を出すやつもいなくなった」
 そう言うと肩に乗っているカラスの羽をやさしく撫でた。
「そういえば、そのカラスいつも一緒ですね。よっぽど気に入ってるんですね」
「そうだな、生まれたときから一緒だからな」
「えー卵から育てたんですか? 通りで慣れてるはずだ。少佐のこと母親だと思ってるのかもしれませんね」
「母親か。ふふふ」
 ゆっくりとしたカーブを曲がると立派な構えの門が見えてきた。
「あれが桜門ですか」
「そうだ。運転は慎重にな。スピードを上げたりするなよ」
エディ「へいへい」

 門の手前で車を停める。門の内と外に守衛がいて一人が近づいてくる。
「今日は敷地内への立ち入りは禁止だ。直ぐに引き返せ」
 横柄な守衛に少佐が答える。
「ソフィア様の依頼でやってきたスイーパーだ。ベルモント氏に確認して貰えば判るはずだ」
「ソフィア様の……。しばらくお待ち下さい、確認してきます」
 小走りで去っていく守衛を見て昨日の少佐の言葉を思い出す。
「ずいぶんな効き目ですね。ソフィア様の名前は」
「そりゃそうだろ。なんせ命がけで守るべき相手だからな」
「誰も逆らえないって訳ですか。こりゃソフィア様の陰謀説も……」
「おいおい、ご本人の前でそれらしい態度を取るなよ。生きて屋敷を出られなくなるぞ」
「了解です。命は惜しいですからね」
 先ほどの守衛が急いで戻ってくる。
「どうぞ、お通り下さい。ただし車は守衛所脇の駐車場に止めて頂きます」
 守衛が戻り門が開く。駐車場に車を止め建物に向かって歩き出す。
「ずいぶん警戒してますね。何かあったのかな? ああそうか、人形が盗まれたからでしょうか?」
「どうだろうな、それだけじゃないような雰囲気だが」

 豪華で大きな建物が見えてくる。執事がドアを開け二人を招き入れる。
 程なくベルモントが慌てた様子で現れた。ただならぬ様子を見て少佐が問いかける。
「どうしたのですか? ずいぶん慌ただしいご様子ですが」
「実は緊急事態がおきまして。奥様が行方不明になられたのです」
 予想外の展開につい口を挟んでしまう。
「行方不明? ゴーストじゃなかったフェアリーモードで探せばいいんじゃ?」
「その、居所は判っていると言えば判っているのですが……」
 いいよどむベルモント。
「屋敷の者達には入れない場所があるのです」
 声とともに奥からソフィア様が現れる。少佐と二人深々と礼をする。
「ソフィア様。お早うございます」
「お早うございます少佐。エディさん」
「入れないとは、契約印のことですか?」
「ええ、そうです。彼らはそれを破って立ち入ることは出来ません。そんなことをすれば」
「死んでしまうと?」
 言いよどむソフィアに変わりベルモントが答える。
「いきなり死ぬわけではございませんが、さほど進まぬうちに行動不能になり放置すれば死ぬことになるでしょう」
「では、誰も助けに行けないのですか?」
「私なら入っていけるのですが」
 ソフィアの言葉にあわててベルモントが割ってはいる。
「とんでもございません。救助の者も向かえないような場所にお嬢様を行かせるわけには参りません」
 何か言いたそうなソフィアを制するように、少佐がベルモントに問いただす。
「では、夫人の救出はどうなさるおつもりです?」
「手が無いわけではないのですが……」
 それまで黙って聞いていた俺も、的を射ないやりとりについ口を出してしまう。
「手が無いわけではないなんて、悠長な事言ってないで、手が有るんならさっさとやればいいじゃないですか」
「契約印を結んでいない者ならば入っていけるのです。ただ、中は様々な仕掛けがある迷路になっていると聞いておりますので。気力・胆力・行動力に優れた人物でないと……」
 そう言うと、ベルモントはじっと少佐を見つめる。
「判りました。我々が救出に向かいましょう。ただしこれは別料金になりますが、よろしいですか?」
「おお、ありがたい。もちろん十分な謝礼をお支払いいたします」
「では、判る限りの情報をお聞かせ下さい。その場所とはいったい?」
「伯爵家の霊廟です」
「霊廟」
「中にご遺体があるというわけではないのですが、代々の伯爵家の魂が休まれている場所と伺っております」
「魂ですか」
 なぜか少佐の表情が堅くこわばる。
「なぜ夫人は霊廟に向かわれたのです? 日常的にお参りをする習慣でも?」
「いいえ、そのような習慣はございません。伯爵家の方がお亡くなりになった場合や、爵位襲名など限られた場合だけでございます」
「夫人がそこに向かわれた理由に心当たりは?」
 ベルモント、苦しそうな表情になる。
「あるのですね?」
「いいのよベルモント。お母様を捜し出すのに必要なら隠し立てすることはありません」
 言葉を詰まらせながらも話し出すベルモント。
「昨日あなた方とお会いした後、奥様にスイーパーの方が見えられるとお話しいたしましたところ、大変動揺なさったご様子で」
「霊廟に向かわれたと?」
「その時点では考え込んでおられるご様子でした。一人になりたいとおっしゃるので退出いたしましたが、今朝になって行方が判らなくなってしまい」
「どうして霊廟に向かったと判ったのですか?」
「伯爵様にご報告し、フェアリーモードの使用許可をいただきました。監視カメラの映像をチェックいたしましたところ、夫人が霊廟の中にお入りになる姿は確認致しましたが、お出になる映像は確認できておりません」
「つまり、まだ中にいるという事ですね」
「さようでございます」
「出入り口が複数有ると言うことはありませんか?」
「私が存じ上げる限り、その様なものはございません」
「伯爵は他に何か?」
「明日から始まる議会のため戻ることはできないと。全て任せるから何としても見つけ出すようにとのお言葉でした」
「ふむ。伯爵はいつから首都に?」
「……、六日前でございます」
「六日というと、人形が紛失した日ですね」
 黙り込むベルモント。
「フェアリーモードを使ったということは、ソフィア様のお部屋から人形を持ち出した者が誰なのか既に判明しているのですか?」
「いえ、昨日の映像のみを対象にいたしましたので」
「六日前の映像に関してもチェックをお願いできますか?」
「……」
 押し黙るベルモントにソフィアが指示を出す。
「ベルモント、私が許可します。調べてきて頂戴」
「……、承知いたしました」
 去っていくベルモント氏の背中に哀愁のような物がだだよっているように見えたのは気のせいだったろうか。
「ソフィア様、よろしければ人形の有った部屋。つまりソフィア様のお部屋を拝見させていただきたいのですが、お願いできますか?」
「はい、どうぞこちらへ」
 ソフィア様を先頭に屋敷の中を進む。二階建てのアパートがすっぽり入りそうな高い天井。あんなところ、どうやって掃除するんだろうか? こんなホテルに泊まったら一泊で相当取られるんだろうな。などと埒もないことを考えながら歩いていると、突然それまでとは違った古めかしい区画に入る。
 天井も低く、廊下の幅も半分以下だろうか。よく手入れをされているものの壁に浮き出た染みの跡など古くささは否めない。芸術とかにはとんと無縁の俺にも壁に掛かった絵画や所々に置かれた壺などが今時の物とは様子が異なるくらいは判った。
 じろじろと辺りを見回していると、それに気づいたソフィア様が立ち止まり俺に話しかけてきた。
「古くて驚かれたでしょう? このあたりは初代伯爵の時代から残されている物なんですよ」
「初代って、何百年も前のお話じゃ?」
「ええ、そうなりますね。伯爵家の跡取りは代々ここで暮らすのがしきたりになっているんです」
(この国の建国当時から残っている建物と言う事になる。さすが伯爵家という所だろうか。街の教会や議事堂を古いと思っていたが上には上があるもんだ。間違いないのは、何か一つでも壊したら一生ただ働きだって事かな)
「さ、まいりましょう」
 ソフィア様の言葉で再び歩き出す。
 自分の部屋に移動するだけでこんなに歩くとなると、意外に足腰は丈夫になるんじゃないか? などと考えていると再びソフィア様が立ち止まる(やばい。また見抜かれたか!)
「着きました。ここが私の部屋です」
  

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2009年09月10日

連続小説 6) 斡旋所再び

ソフィアさんのイメージが特になかったので(^^;
とりあえず美人さんを。

美人画といえば鶴田一郎さん。
ノエビアとかカルピスのCMでおなじみですよね。


ご本人のオフィシャルサイトです。
年代毎の代表作を見ることが出来ます。
http://www.tsuruta-bijinga.com/works/index.html
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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

6) 斡旋所再び
 斡旋所の中はかなり片付いていて、奥の方でスイーパーが数人酒を飲んで騒いでいる。
 カウンターの中にいたマスターが少佐の顔を見てにこやかに笑う(あんな顔もするんだな)
「やぁマスター。昨日は無理を聞いて貰って悪かったな。これはほんの気持ちだ」
 少佐が高そうな煙草を取り出しマスターに渡す。マスターの顔が更に崩れる。
「おお、こりゃすまんな。どっかの誰かと違って気が利くのー」
「すいませんね気が利かなくて。ずいぶん片付いたみたいじゃないですか。すぐにでも再開できそうだ」
「そうじゃろ。持つべき物は仲間じゃな。皆で片付けを手伝ってくれた。誰かさんを除いてな」
「うへっ、勘弁してくださいよ。アパートを追い出されるところだったもんで。この埋め合わせは必ずしますから。ね」
 手を合わせるエディを見てマスターが意味深な笑顔を浮かべる。
「ま、いいじゃろ。少佐から事情は聞いておるしの。お主もおかげでアパートを追い出されずにすんだんじゃろ?」
「へいへい、おかげさま少佐さまでございます」
 頃合いを見て少佐が話を切り出す。
「マスター頼みがあるんだが」
「うむ、爆破当時の映像かの?」
「あれ、なんで判ったんです? 少佐は頼みがあるって言っただけなのに?」
「ふ、お互いプロじゃからな。ツーと言えばカーというやつだ」
「それじゃあまるで、俺はプロじゃないみたいじゃないですか。なんだかなー」
「プロといっても色々いるからの。ほれこれじゃ」
 マスターが端末を操作すると早送りで映像が映し出される。
「この辺からでいいかの。爆破の一分前じゃ」
 モニターには斡旋所の入り口付近が外から映し出されている。
「こんな所にカメラがあったんだ。知りませんでしたよ」
「カメラには二種類あっての。いかにもカメラですよと主張する物と、そうとは気づかせん物だ。両方設置せんと普通は役にたたん」
「じゃあ俺が普段見てるカメラは?」
「そりゃ、わざと見せつけてる方じゃろ」
「それって」
「一般人レベルということかの」
 何か言い返したい所だがうまい台詞が思いつかないので黙っていることにする。
「そろそろじゃな」
 すーっとドアが空き、再び閉まり直ぐに爆発がおきる。
「あれ、今の誰か写ってました?」
「もう一度再生するぞ」
 誰も写っていない。ドアが勝手に開いて閉まったように見える。
「これって」
「ゴーストかの」
「ゴ、ゴーストって伯爵ですか?」
「ほほ、お主も少しは物を覚えてきたようじゃな」
「えへへ、ついさっき。でもこれじゃ役にたたないんじゃありません? 何も見えないんじゃ無いのも同然では?」
「マスター、ゴーストモードを頼めるか」
「ほいほい」
「えっ、マスターそんなの使えるんですか? もしかして伯爵家の関係者?」
「なわけ、なかろう。蛇の道は蛇と言ってな。長年この商売をしてると色々覚えるもんさ。さて、これでどうだ」
「あっ、こいつは……って誰だ?」
 モニターにはドアを開ける人影が映っているが、妙にぼやけて顔の判別は出来ない。
「さすがに変装無しとはいかないようだな。だが伯爵家の領地内でゴーストモードを使える者は限られているから、関係者が見れば誰かは想像が付くだろう。マスター、コピーをお願いできるかな」
「ほいよ、来る頃だと思って用意しておいた。室内の映像も入れておいたぞ」
 マスターが取り出したディスクを少佐に渡す。
「すまないマスター、この礼はまた今度」
「ツーカーって奴ですか」
「そう言う事じゃ。それと室内の映像を見れば判ることじゃが、うちの連中は誰も爆弾だと叫んではおらん」
「というと、やはり?」
「投げ込んだ奴が叫んでいったんじゃろうのう」
「少佐の読み通りですね」
「火もでんかったしの。暴徒鎮圧用の爆薬といったところかの」
「それじゃあ出所は限られますね」
「そうかもしれんが、そもそも売り物でなければ出所は判らんかもしれんな」
「うーん、そう簡単にはいかないか」
「それが、人生ってやつじゃな」
 大して有り難くもない教訓を耳に店を出る。

 車に向かう道すがらさっきから気になっていたことを聞いてみる。
「ゴーストモードを使ったって事はやはりベルモント氏ですかね?」
「どうかな。ゴーストモードといってもそう単純な物でもないだろうしな」
「というと?」
「伯爵家の者が対象になるのは最高レベルのモードだろうが、それ以外にもレベルの低いモードが複数用意されてるだろうって事だ」
「レベルの低いモード?」
「伯爵子飼いの実行部隊とかあるいは軍警察の諜報部とか、そういう連中が隠密行動を取るには便利だろ?」
「そ、それはそうでしょうけど。それってやばくないです?」
 少佐、じっとエディを見つめ
「何かやばいことでもしているのか?」
 エディあわてて、打ち消す。
「いえ、そんな。でも、見えない相手が周りをうろついてたら気味悪いでしょ?」
「目の前に現れた相手が見えない訳じゃないからそう気にすることもないだろう。まあ、カメラ任せの防犯設備だと問題だろうが」
 そんなものなのかと疑問に思いながら車に乗り込む。
「どうします? 他にどこか回りますか?」
「いや、これ以上の収穫は無いだろう。事務所に向かってくれ。それと明日は早いから今日は酒もギャンブルも無しだぞ」
「へへ、判ってますって。朝お迎えにいきますよ」
「うむ、そうしてくれ」

 少佐の事務所前。去っていく車を見送る少佐。
「ずいぶん色んな事話してたわね。彼なにか気になるの?」
「なんだか妙なところで感がいい奴だと思ってね」
「邪魔されるかも?」
「邪魔はさせんさ。だが、その場で色々説明させられてはかなわんからな。納得して無くてもこっちの言うことを聞かせるには信用させるに限る」
「黒いわねー」
「カラスだからな」
  

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2009年09月09日

連続小説 5) 少佐の推理

どんどん話が長くなるw

カラス(無口)です。

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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

5) 少佐の推理
 車を走らせるとすぐに少佐が話しを始めた。
「エディ。お前斡旋所の爆破騒ぎの時、現場に居合わせたんだよな? 何か変わったことはなかったか?」
「変わったことねー。爆弾が放り込まれる以上に変わったことは無かったと思いますが」
「目立たないことでいい、最初から思い出してくれ」
「えーと、俺が依頼書を覗いていたら爆弾だ! と声が聞こえて、カウンターの中に飛び込んだらどーんと爆発が」
 少佐が片手を上げて制止する。
「爆弾だ、と声をかけたのは誰だ?」
「え? そりゃスイーパーの誰かじゃ」
「その誰かとは誰だ?」
「いや、そこまでは」
「そいつは何で爆弾だと判ったんだ? ご丁寧に爆弾と書かれていたのか?」
「そんなことは無いでしょうけど」
 爆発は俺のいたテーブルの辺りで起きていた。あそこに転がってきた爆弾が見える位置というとマスターくらいしか思いつかない。しかしあの声は……
「お前これがなんだか判るか?」
 少佐がバッグから口紅を取り出し目の前にかざす。
「何って口紅でしょ?」
「これが爆弾だ」
「え!?」
 驚いてハンドルを切り損い車が蛇行する。
「馬鹿者! 気をつけろ!」
「だって少佐がいきなり。どういう事です?」
「第一に、いかにも爆弾ですといった風体の爆弾など軍隊か工事現場で使う物くらいだろう」
「うーん、そう言われてみればそうかもしれませんね」
「第二に、仮に爆弾だと見抜いた者がいたとして、爆弾だと叫ぶより先に体が反応する。さっきのお前のようにな」
「そりゃ自分の身が可愛いですから」
「第三に、軍で使用する物を含め大抵の爆発物は相手を殺傷する事を目的とする」
「確かに」
「今回の爆破騒ぎで死傷者はでたのか?」
「うーん。かすり傷くらいはあったかもしれませんが、重傷者はいないかと」
 少佐、やはりという顔で頷き言葉を続ける。
「今回の爆破騒ぎ、出来るだけ被害が出ないように気を遣っているとしか思えん」
「それ、どういう事です?」
「最初からスイーパーの誰かを狙ったとか、斡旋所そのものを破壊する意志は無かったという事だ」
「それじゃあ犯人の狙いは? まさか」
「そう、伯爵家の依頼書。そう考えれば辻褄が合う」
「それはいくらなんでも、都合よく考えすぎじゃ?」
「どの辺がそう思う?」
「だって依頼書が目的なら、依頼書そのものを奪ってしまえばいいでしょう。その方が簡単だし目立たない」
「それができないとしたら?」
「できないって?」
「この依頼は伯爵家正当後継者、いや今となっては伯爵家の正当な血筋の唯一の持ち主の意志だということだ」
「唯一?」
 少佐があきれた表情を浮かべる。
「……。お前本当に政治とか上流階級とかに興味なさそうだな」
「え? それは確かにそうなんですが。だって、当代の伯爵がいるわけですし」
「それが知らないというんだ。いいか、今の伯爵は婿養子で正当な血筋ではない」
「てことは、夫人の方が?」
「順を追って話してやる。既に亡くなられているが先々代の伯爵、この方は伯爵位三十年で引退され実子の先代伯爵に爵位を譲られた」
「へー、ずいぶんいさぎ良い人だったんですね」
「伯爵家の伝統で、最長でも三十年しか在位してはいけない事になっているそうだ」
「政治ってのは地位にしがみつくもんだと思ってましたけど、そういう人もいるんですね」
「爵位を譲られた後は悠々自適、趣味に没頭しておられたそうだが、ある日先代の伯爵が急死する。ソフィア様はこの先代伯爵と今の夫人のお子様だ」
「つまり正当な血筋ってことですね」
「そうだ。ソフィア様は当時確か一歳を過ぎたばかりで当然爵位は継げない。そこで先々代の意向で夫人に婿を取ることにした。これが現伯爵というわけだ」
「つまり、今の伯爵も夫人も伯爵家の血筋ではないと」
「現伯爵は遠縁にあたるそうだが、血は薄いのだろうな」
「ふーむ、するとどうなります?」
「伯爵家に代々使えてきた者にとっては、現伯爵よりソフィア様の方が重要。ということもあるだろうな」
「え? それってもしかして」
「ソフィア様が私に依頼を出し、伯爵がそれを阻止しようとした場合、命令を受けた者はジレンマに陥ることになる」
「どっちの命令を聞くかで?」
「そうだ。現伯爵の命に背くわけにも行かず、かといってソフィア様直々の依頼書を奪ってしまってはソフィア様の意志に背くことになる」
「究極の選択ってやつですね」
「結果が今の事態だ。私宛の依頼書を斡旋所に回す。私が依頼書を探しに乗り出すと斡旋所で騒ぎを起こし探させないようにする。まるで子供の嫌がらせだ」
「てことは俺が依頼書を持ち出したのは」
「相手にとっては望んでいた結果ともいえるな。お前が依頼を受けのこのこと教会に現れたら、斡旋所に依頼を出した覚えはないと突っぱねることもできるし、お前に任せた上で失敗してくれれば更に満足しただろう」
「くそっ! 相手の思うつぼってことか」
「お前だけでも必ず失敗したとは思わんが、伯爵家の内情などまるで知らんお前では解決するのに時間はかかっただろうな」
「……、確かに」
「ところがお前は私と組んだ」
「これで相手の鼻を明かせるってわけですね! ざまーみろだ。ところで斡旋所には何をしに?」
「カメラの映像が見たい」
「カメラって防犯カメラですか?」
「そうだ、斡旋所の周囲に仕掛けてあるはずだ」
「そんなものありましたっけ?」
「あのマスターを甘く見るなよ。百戦錬磨の強者だぞ」
「えーまさか。ぼんやりした親父にしか見えませんよ」
「そこが強者の怖いところだ。さっきのベルモント氏にしてもそうだ」
「え? あの誠実そうな老人が?」
「誠実なのは伯爵家の人間に対してだけだろう。正直あの男とやり合うことになったら勝てる自信は無いぞ」
「少佐があの老人に?」
「あの老人、恐らく実行部隊の長だろう」
「ま、まさか」
「今回の事件の首謀者ではないにせよ、命令をうけて実際に動いたのはあの老人自身か少なくとも手の者と見て間違いない」
「そんな、それじゃあソフィア様は騙されてるってことですか?」
「そう言ってやるな、彼らも辛い立場なんだろう。すまじきものは宮仕えと言ってな、お前には縁が無さそうだが」
「へいへい。どうせあたしには縁がありませんよ。でも今までの話をまとめると。爆弾騒動の切っ掛けになったのは人形の紛失事件。そして指示したのは伯爵で、実行したのはベルモント氏。って事であってます?」
「大筋はな。だが伯爵以外にもう一人命令を下せる者がいる」
「もう一人って、伯爵とソフィア様以外……夫人? だって夫人はソフィア様の実の母親でしょ? なんで娘の人形探しを邪魔する必要があるんです?」
「人形を盗んだのは誰か、という話になるな」
「まさか、娘の人形を盗んだ? どうして? 金持ちなんだから宝石を売り飛ばしたいってわけでもないでしょ? それとも実は伯爵家にはお金が……いやいやいや、伯爵も夫人も呪いのことは知ってるわけですから、そんなことするわけないし」
「お前も大分事情が飲み込めてきたようだな」
「飲み込めたって。俺はそんなことはないだろうって、否定してるんですよ?」
「次のステップに進むぞ。お前、監視カメラを知ってるな」
「そりゃあ知ってますけど、どうしたんです急に?」
「伯爵家クラスになると監視カメラに死角など無い。それこそ使用人の寝室からシャワー室、トイレまで写されていると思え」
「それじゃあプライバシーなんて無いじゃないですか」
「そういうことだ。もちろん本人同意の上でだぞ。契約条件に入っているはずだ」
「うーん、それが判っていても勤めたいものなんですかねー」
「給料は良いし箔が付くからな。代々仕えている者達にとっては他に選択肢も無いだろうしな」
「しかし、それだけカメラに写されてると知っていれば、盗みを働こうとは思わないでしょうね」
「ああ、それに今回の事件はソフィア様が自室を離れたわずか数時間の事だ。アリバイなど直ぐに判ってしまう」
「なるほど」
「他国のスパイが伯爵家の防犯設備を破ったとも考えられなくはないが、それで屋敷から持ち出すことも出来ない人形一個盗んで終わりか? 伯爵の命を狙うとか他に使い道があるだろう」
「そりゃそうですね。防犯設備を強化されたらおしまいですし、奥の手ってのはいざって時に使うから効果があるもんですからね」
「そう言う事だ。わざわざ相手に防犯設備の見直しをさせるような真似はすまいよ」
「そうすると残るのは?」
「最初からカメラに写らない者達。この場合は伯爵家の三人+ベルモント氏くらいだろうな」
「カメラに写らない?」
「正確に言えば写ってはいる。しかし普通にモニターを見たり再生しても姿を確認することは出来ないということだ」
「どういうことなんです?」
「伯爵家の者が今どこにいて、どういう行動を取っているのか、使用人達に知られずに自由に動くためだ」
「使用人のトイレの中まで覗いといて、自分たちはがっちりガードするわけですか。金持ちってのはまったく」
「別に伯爵家の人間がモニターを覗くわけではあるまい。それにそう言う場所のチェックは同性がするだろうしな。第一、伯爵の秘密を使用人が知ったらお互い不幸になるだろ?」
 想像を巡らせてみる。確かに色々不都合がありそうだ。
「それはあるかもしれませんね。でもそれだと万が一伯爵家の人間が誘拐されたりすると困りませんか? せっかくカメラがあるのに写らないんじゃ」
「そこでフェアリーモードというのがある」
「フェアリーモード?」
「普段は見えない者が見えるようになる設定だ。もっとも使用人の間ではゴーストモードと呼ばれることが多いらしいがな」
「フェアリーにゴーストね、どっちも関わり合いたくないですな。でも、ちょっと待って下さい。てことは、今回の事件。そのフェアリーだかゴーストだかの設定にすれば解決ってことですか?」
「ソフィア様の部屋の中にまでカメラが仕掛けてあるとは思えんが、少なくとも部屋の前の廊下には設置してあるだろう。それを見れば該当の時間に、誰が部屋に入って出ていったのかはすぐ判るだろうな」
「だとしたら、なんでわざわざスイーパーに依頼するんです? 自分たちで解決できるじゃないですか」
「知らないからだろう」
「知らないって何を?」
「屋敷の中が至る所、カメラで監視されていることをさ」
「ソフィア様が……って事、です?」
「そうだ。使用人の寝室やシャワー室、はてはトイレの中まで監視しているなんて、あの令嬢が知っていると思うか?」
「そういう下世話な話をソフィア様にする者はいないって事ですか」
「ソフィア様が当主にでもなられれば話は別だが、今の時点でお話ししても害はあっても利はあるまい」
「害と言うと?」
「そんな事はおやめなさい! とでも言われたらどうする? 命令を無視するか? それとも言われるままに屋敷のカメラを取り外すか? 警備体制がぼろぼろになるぞ」
「うーん、あの令嬢なら言いだしそうな気もしますね。家宝の人形よりも使用人の命を優先させたくらいですし。あ、でもベルモント氏がいるじゃないですか。今回の依頼だってベルモント氏経由で出てるんだし、彼が説明すれば」
「もちろん彼には全て判っているさ。だがいったい何と説明するんだ? 人形を盗んだのはあなたのご両親のどちらかに違い有りません。フェアリーモードで現場を押さえましょう。とでも言うのか?」
「そんな露骨な言い方はしないでしょうけど、うーん」
「ベルモント氏にすれば、カメラの映像をチェックした時点で、自分とソフィア様を除けば該当者が二人しかいないことは承知だ。しかしそれをソフィア様に告げることは出来ない。そんなことをすれば伯爵と夫人に対する背信行為だからな。かと言ってそれを説明できない以上、ソフィア様が私に依頼を出すことを止めることも出来ない。だから自分で依頼を出しておきながら同時にその妨害もするという茶番を演じたわけさ」
「うーん、そうだとするとなんだか彼が哀れに思えますね」
「恐らく時間稼ぎをしている間に伯爵と夫人に状況を説明して、人形を戻すなりソフィア様に事情を説明してもらうつもりだったんだろうな」
「つもりだった?」
「人形が消えたのは五日前だとおっしゃっていただろう。その間に解決していないと言うことは」
「うまくいかなかったと?」
「どうだろうな。一応多少の時間的余裕を与えるために、今日でなく明日伺うと伝えたわけだ」
「ああ、そういう理由だったんですか」
「ベルモント氏にこちらの意志は通じただろうから、今日のうちにもう一度話してもらって。うまくいけば明日お屋敷に到着した時点で既に解決済み、となるかもしれん」
「なんだか微妙な仕事っていうか、仕事した気分じゃないですね」
「上流階級の事件というのは案外こういう事が多い。元々防犯設備はしっかりしてるから外部犯の可能性は低いし、息子が家宝の品を持ち出して売っぱらったとか、亭主が浮気相手にプレゼントしたとかな。本人達に罪の意識は無かったり計画的でもないから直ぐにばれてしまう」
「なんだか今まで俺がかかわってきた仕事とはずいぶん違う感じですね」
「だろうな。荒事より事件を穏やかに解決する。できれば事件そのものがなかった事にする、そのくらいの心がけで丁度良い」
「事件をなかったことに? そんな事できるんですか?」
「考えてもみろ。今回の事件だって、仮に夫人が人形を持ち出したとしてどこが事件なんだ? 母親が娘の人形を黙って持ち出しました。で逮捕されるか? それにこの件は警察に連絡したわけでも無い。スイーパーに探してくれと依頼しただけだ。人形が無事見つかればあとは家族の問題。公にする必要など、なにもないだろう?」
「確かにそういう言い方をすれば事件じゃないですね。うちの親も俺に黙って何か持ってくなんてしょっちゅうでしたし」
「逆じゃないのか? お前が親の金を持ち出したとか」
「え? やだなー、そんなことは……数えるくらいですよ。でも人形盗難の方はそれでいいとして、爆破事件の方はそうはいかんでしょう? 大したこと無いとはいえ多少の被害はあったでしょうからね。軍警察も出張ってましたし」
「それは微妙な話と言えば微妙だな。もし伯爵家が指示を出したと言えばそれはそれで片付くが」
「と言うと?」
「この辺一帯は伯爵家の所領だからな。気に入らない家があったから吹き飛ばしたと言われれば誰も逆らえんよ。軍警察自体、伯爵の配下なんだし」
「そりゃあ、また強引な話ですね」
「まあな。戦争中でもあるまいし、邪魔な家を爆破した。では民衆に不安が広がるだろうから、知り合いのマスターを驚かそうと思ったら火薬が多すぎて騒ぎになってしまった。とでも言って賠償金を多めに包むくらいが落としどころかな」
「そんなもんで片付くんですかね?」
「伯爵家は常連客だと言っていたし、金額次第で治まるところに治まるだろうよ。ともかくそう言うことだから、お前もこの件を誰かに話したりするなよ。噂が広まったりしたら信用台無しだからな」
「了解しました。もしかして、今までの説明って俺に喋らせないために?」
「ああ。単に誰にも言うな。とだけ言われると逆に喋りたくなるだろう? だから噛んで含むように説明してやったんだ、理解したか?」
「よーっく判りました。しかしあれですね、現場にさえ行っていないのに、よく色々判っちゃうもんですね」
「判ってなどいないさ。可能性の一つを示唆したにすぎん。そう考えればピースが埋まる。それだけのことだ」
「そういうもんなんですか」
「そういうものだ。もちろん別の可能性だってある」
「例えば?」
「今回の事件、全てを仕組んだのはソフィア様」
 驚いてハンドルを切り損ねる。じろりと少佐に睨まれる。
「ま、まさかそんなこと!」
「人形が無くなったこと自体狂言だったとしたら?」
「そんな! だって動機がないでしょう?」
「今の伯爵が実の父親でないことは恐らくご存じだろう」
「まあ、もう子供じゃないんだし。知らされているでしょうね」
「その男を父と呼び、その男が伯爵と呼ばれることに我慢が出来なくなったとしたら?」
 エディ、黙り込んでしまう。
「このまま何事もなければ、今の伯爵はあと十年以上在位し続ける可能性だってあるんだぞ」
「しかし、だからといって。あのお姫様がそんな大胆な行動が取れるようには見えませんでしたけど」
「ベルモント氏に特殊な英才教育を受けて育ったとしたら?」
「特殊な英才教育?」
「例えば、人心掌握術。お前、あのお姫様に心を動かされなかったか? この人の役に立ちたいとか」
「そりゃー、あれだけ可憐な少女を見れば男なら誰だって」
「私もそう思った」
「え、少佐も?」
「ああ、この少女の力になりたいとな」
「だったらそれでいいじゃないですか、小難しく考えなくても」
「本当にそれで良いのか? 結果的に何の罪もない伯爵を陥れることになってもそう言えるか? この少女のためなら構わないと」
「そ、それは」
「ま、ソフィア様が仕組んだとするなら伯爵が潔白と言うことはないだろうがな」
「どういうことです?」
「狂言を仕組んだ目的は、外部の我々を招き入れること。そして監視カメラの映像を確認することだろう」
 しばらく考えて首をひねる。
「すいません、判りません」
「自分が屋敷を留守にした数時間の間に何かあった。それを確認するためにはフェアリーモードを使うしかない。しかし理由も無しに使うわけにも行かない。だから人形が消えたことにして我々を雇い、更に斡旋所で爆弾騒ぎを起こし事件に裏があるように思わせる。そして我々の口からフェアリーモードを使うよう助言させる。ま、こういった筋書きかな」
「さっきまでの話とまるで違いますね」
「そうだな」
「どっちなんです?」
「知らんよ。可能性の話だと言っただろう。どっちも外れてるかもしれん。使用人が盗んだシナリオだって考えられる。聞きたいか?」
「無責任だなー」
「だから可能性の話だと言ってるだろう。可能性に責任など取れるか」
「うーん困ったな。俺はどうすれば」
「別に困ることはないだろう。色々な可能性があり、誰も信用できない。これが基本だろうが。それとも何か、お前はスイーパーの仕事をするとき最初から犯人を決めてかかってるのか?」
「いえ。どちらかというと何も決めてないって言うか。襲ってきた奴をぶちのめせばなんとかなると」
「つくづく、上流階級の仕事に向いて無さそうだな。襲ってきたのがドラ息子だった場合、最悪慰謝料の支払いがとんでもないことになるぞ」
「うへっ。確かに向いてないかもしれませんね」
 そうこうしているうちに斡旋所に到着する。
「よし、そこに止めろ」
「斡旋所のカメラなんか確認する意味があるんですか?」
「あのなあ、推理は推理。物的証拠を集めずにどうするつもりだ? 私がこう思うからあなたが犯人でしょう! とでも言うのか?」
「ああ、いやそういう事じゃなくて。証拠が写ってるのかなーなんて」
「それを調べるために来たんだろう」
「そうでした。車ここに止めますね」
(危ない危ない。少佐が見てきたように話すもんだから、こっちはもう事件が解決した様な錯覚に陥っていた)
 二人は車を降り、斡旋所に向かう。
  

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2009年09月08日

連続小説 4) 伯爵令嬢

今回はちょっと長いです(^^;

少佐アバター
ちょっと若いかなー

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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

4) 伯爵令嬢
 聖堂の奥で一人の少女が祈りを捧げているのが見える。傍らの老人が少女を見守っている。
 少佐とエディが近づいていくと老人が少女に声をかける。
 少女はゆっくりと立ち上がり振り向いた。
 ステンドグラスを抜けた色とりどりの淡い光の束が少女の周りを乱舞し亜麻色の髪を輝かせる。神の祝福を受けた少女というのは実在するのだ。
「あなたが少佐さん?」
 鈴を転がすような声で話しかける少女に、少佐は片膝を付き頭を下げる。
「お待たせして申し訳ありません。ソフィア様」
 事態が飲み込めない俺は立ったまま呟く。
「ソフィア様?」
「伯爵令嬢ソフィア・フォルテモード様だ。頭を下げんか」
 慌てて膝をつき頭を下げる。
「申し訳ございません。てっきり伯爵様がいらっしゃるものとばかり。まさかこんなお美しい姫君がおられるとは」
「馬鹿者! 余計なことを言うな」
「いいのよ。面白い方」
 ソフィアはくすくすと笑いながら二人に椅子を勧め自分も座る。
 少佐が立ったままなので、俺も立っていることにした。
「それでご依頼というのは?」
 少しの沈黙の後、ソフィアが語り出す。
「人形を探して欲しいのです。フォルテモード家に伝わる大事な人形、アイリクを」
(アイリクと言うのは初代伯爵の夫人の名前でもあるらしい。大変才能豊かな女性であったらしく伯爵家誕生に大きく寄与し、夫人が亡くなった後伯爵はその人形を作らせ代々の跡継ぎに相続させるよう指示したそうだ。この時の俺はそんな背景は露程も知らず話を聞いていたわけだが)
「その人形はいつ盗まれたのですか?」
「五日前です。私が外出先から戻ると消えていました」
「ソフィア様のお部屋から?」
 黙って頷くソフィアを見て少佐は首をかしげる。
「伯爵家ご令嬢のお部屋に賊が侵入し、人形を盗み出したというのですか? 伯爵家の警備がそれほど手薄だとは思えないのですが?」
 しばらくの沈黙。
「人形は多分屋敷内にあります。いえ間違いなく。そして私の部屋から人形を持ち出したのは……」
「屋敷の人間、ということですね」
 小さく頷くソフィアの肩が震えている。
「なるほど、それなら確かにありえるかもしれません。人形が屋敷から持ち出されていないという根拠はありますか?」
「あの人形は普通の人形ではないのです」
「普通の人形ではない?」
「はい、あの人形は対になるドールハウスの側から一定距離離れると自らの意志で戻って来るのです」
「自らの意志で?」
「ええ、ドールハウスは大きな物でとても一人や二人の人間で持ち運べるような物ではありませんし、運び去ろうとした形跡も見あたりませんでした」
「なるほど、それで人形はそのドールハウスからそう離れていない場所に隠してあるということですね」
「そうです」
「うーん、そうなると犯人の意図がわかりませんね。屋敷から持ち出せない人形を盗んでいったい何の意味があるのか?」
「人形の瞳にはアイリクの涙と呼ばれる宝石が埋め込まれています」
「では、その瞳だけを……言いにくいのですが」
「いいえ、瞳だけをくり抜いて持ち出すことは出来ません」
「と言いますと?」
「アイリクの涙こそ人形の魔力の源なのです。瞳に手をかけると呪いが発動し周囲の者は絶命してしまいます」
「つまり、屋敷の中で死んだ者はいないということですね」
「ええ、人形が消えた事に気づいて直ぐに屋敷の者全員に事実を告げました」
「ふむ、それは厄介なことになりましたね。犯人にしてみれば苦労して盗み出した人形が外に持ち出せないだけでなく、己の命を奪う危険な物だと知ってしまったわけですから。二度と人形に近づかない可能性もあります」
 ソフィア、黙り込みうつむいてしまう。
「どうしてそのままにしておかなかったのですか?」
「え?」
「呪いのことを告げなければ犯人が宝石に手を出し、結果死んでしまえば人形の有りかが判ったのではありませんか?」
 ソフィア、少佐を真っ直ぐ見つめ答える。
「そんなことは出来ません」
 少佐、ソフィアをじっと見つめた後にこっと笑う。
「判りましたソフィア様。人形は必ず見つけ出します」
「では、依頼を受けていただけるのですね」
 みるみる少女の顔が明るくなる。息苦しかった室内を春風が通り過ぎたような気がした。
「では、お屋敷の方には明朝お伺いします。よろしいですか?」
「はい」
「あと数点お伺いしたいのですが。人形の呪いについて事前に知っていた者はいますか?」
「ええ、伯爵家の者は当然知っていますし。古くから勤める者達も公にはともかく知っていたと思います。ねえ、ベルモント?」
 側に控えていた老人が意外にしっかりした声で答える。
「はい、お嬢様。申し上げにくいことではございますが、新しく入った者達や下働きの者など、ご家族のお側に近づくことを禁じられている者以外は存じ上げていたかと。お嬢様のお部屋の片付けをする者達に、間違っても人形に触れてはいけないと注意する必要がございましたので。申し訳ございません」
 深々と頭を下げる老人に少佐が問いかける。
「それならば犯人の目星はすぐに付いたのでありませんか? いくら大きなお屋敷とはいえ、最近入った者達がそれほど多いわけではないでしょうに」
「確かにその様な者達の数は少のうございます。けれどそういった者達はご家族のお部屋に近づくことを許されておりません。事件発覚後、すぐに屋敷の防犯カメラの映像を調べましたが、不振な行動をとっていたものはおりませんでした」
「ふーむ、人形が消えたのはソフィア様が外出された数時間の間ということで間違い有りませんか?」
 この問いにはソフィアが答える。
「ええ、部屋の出入りをするときにアイリクに声をかけるのが習慣になっていますから」
 それまで黙って会話を聞いていた俺は、人形に話しかける少女の姿が目に浮かび、つい声に出してしまう。
「人形に挨拶ですか?」
「おかしいでしょうか?」
「い、いいえそんなことはありません。失礼申し上げました」
「アイリクは他の人形とは違うのです。まるで意志を持って生きているような。いつも私を見守っているような、そんな人形なのです」
「そんな不思議な人形なら、自分の意志でどこかに行ってしまったのかもしれませんね」
 うっかり口を出た言葉に全員沈黙する(まずい事を言っちまったかな)
 どう取り繕うか考えていると、少佐が話題を変えてくれた(GJ少佐!)
「最後にお伺いしたいのですが」
「はい、なんでしょう?」
「今回の依頼、手配されたのはどなたですか?」
「それは私でございます。手違いがありましたそうで、申し訳ございません」
 深々と頭を下げるベルモント。
「いえ、別に責めているわけではありません。それで、その手配は信用のおける人物に依頼されたのでしょうか?」
「はい、それはもちろん。伯爵家では結構な数の依頼を毎月斡旋所に行います。主に市勢調査などですが。そのためそういうルートは確立しておりまして。今回のような個人事務所への依頼が斡旋所の方に回ってしまうなど考えられないのですが。誠に申し訳ございません」

 伯爵家に戻る車の群れを少佐とエディが見送っている。
 車列が見えなくなると、少佐が車の方に歩き始める。
「斡旋所に向かってくれ」
 エディがその後を追う。
「斡旋所? 何かあるんですか?」
「うむ。細かいことは走りながら話そう」
  

Posted by Syousa Karas at 06:03Comments(3)小説

2009年09月07日

連続小説 3) 依頼主

小説の続きです。

エディのアバターです。


髪がイメージに・・・

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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

3) 依頼主
 広い室内に立派な家具が置いてある。奥の窓際にデスクがあり少佐が椅子に座って書類を見ている。
 案内を受けてやって来たエディが部屋の入り口で立ちつくし感嘆の声を上げる。
「ヒュー、立派なもんだ。いったい月いくら払ってるんだ? この辺じゃ相当取られるだろう?」
 少佐はその問いには答えず、エディに目の前の椅子を勧める。
「顧客がついているからな。直接仕事を受けることも多い」
 椅子に座り改めて室内を見渡すエディ。
「なるほど手数料無しで高額な依頼か、うらやましい話だぜ。だが、尚更おかしいな」
「うん?」
「そんなあんたが何でこの仕事にこだわるんだ? 俺の借金まで肩代わりして。大した仕事でも報酬でもないのに」
 少佐、訝しげな顔でエディを見つめる。
「お前、依頼書は読んだのか?」
「ああ見たぜ。無くした人形を探してくれってことだろ? お人形探して1万ドルは割がいいが」
「10万だ」
 何を言われたのか理解できずに一瞬きょとんとする。すぐに金額のことかと思い至ったが、まさかという思いが強く聞き返してしまう。
「え?」
「報酬は10万ドルだ」
 頭の中を札束が駆け回り、椅子から転げ落ちそうになる。
「そんなばかな……」
 口をあんぐりと開けたエディに少佐があきれ顔で答える。
「ばかはお前だ。数字も読めないのか? そんな事でよくギャンブルに手をだすな?」
「だって、たかが人形だろ? 10万ドルなんて出す奴がいるわけ」
「さっきお前に渡した金が1万ドルだったな。報酬が1万ドルだったら私の取り分はどこにいったんだ?」
「えーっと、それは確かに気前がいいとは……、本当に10万ドルなのか?」
「お前の取り分はさっきの1万ドルでいいってことだな」
 とっさに両手を上げて少佐の言葉を遮る。
「いえいえ、何をおっしゃいます。10万そう10万ドルね。……、なんで人形ぐらいでそんな金額を?」
「ふー、いいか。この仕事は本来ここに届くはずだったんだ。手違いで斡旋所に回ったと聞いて探しに行ったところ」
「俺が持ち出しちまってたと」
「そういうことだ」
「それならなんで俺を混ぜる気になったんだ? 少佐一人で受けるつもりだったんだろ?」
「わからん奴だな。手違いとはいえ一度は斡旋所に回った仕事を私が勝手に受けるわけにはいかんだろ。斡旋所から依頼書を持ち出したのはお前なんだから、建前としてはお前がこの依頼を受けたことになる」
(なるほど理屈は通っているようだ。しかしそれなら俺に任せておけば?)
「確かに10万ドルは大金だな。俺にとっては。だがあんたにとってはどうしても欲しいって金額でもないんじゃないのか?」
 食い下がるエディにあきれ顔で少佐が問いかける。
「しつこい奴だな。何が気に入らないんだ?」
「いや、別に気に入らないってわけじゃないんだが。こう、なんていうかしっくり来ないというか」
 少佐はじっとエディの顔を見つめると、ため息混じりに話し出す。
「いいか。何で私の所に顧客がつくと思う?」
「え? さあ?」
「信用だ。顧客は私に依頼すれば必ず解決してくれると思うから、高い金を払って依頼に来るんだ」
「なるほど」
 一概に斡旋所のスイーパーの腕が悪い訳では無いが、新米や他の仕事の片手間にスイーパーをやっている者もいる。信頼できるスイーパーの心当たりがあるなら名指しした方が確実と言うことだ。
「この依頼は私の所に届かなかったんだから、その時点で私は関係ないと言い張ることも出来る。しかしだ、この仕事を受けたスイーパーが失敗したらどうなる? 理屈では私の失敗ではないと判っていても、感情として二度と私の所に仕事の依頼にはこなくなるだろう。そういうことだ」
「ふーん。しかし、たかがお人形探しだろ? 俺が失敗するとでも?」
「この仕事の依頼主が誰だか判るか?」
「え? いや依頼書には書いてなかったよな?」
「ああ、書いてないな」
「そ、そうだろ。そこまでは見落としてなかったはずだ。えーと、10万も払うって事は多分どっかの大金持ちだよな」
 考え込むエディ。
「伯爵だ」
「うん?」
「これはフォルテモード伯爵家の依頼だ」

 古臭い車をエディが運転している。助手席に座っている少佐の肩には大人しくカラスがとまっている。
「しかし、まさかこの辺一帯のご領主様からの依頼とはねー。少佐、あんた普段からこんな大物を相手にしてるのかい?」
「伯爵家の依頼は初めてだ。それだけに失敗は許されん」
「なるほど、上顧客獲得のチャンスってわけだ」
「お前もそのつもりで働くんだぞ」
「へいへい、判ってますとも。俺に取っちゃ5万ドルは大きいからねー」
「残りは4万ドルだ」
「細かいこと言うなよ。4万でも大金さ」
 やがて約束の教会が見えてきた。建物の前に大きな車が数台止まっていて、警備の人間が辺りに散らばっている。
「あれかな?」
「そうだろうな、少し離れたところに止めろ。武器を置いて教会には歩いて向かうぞ」
「へいへい」
「間違ってもポケットに手を入れたりするな。相手に見える所に出しておくんだ」
「判ってますって」
 車を降り、横に並んでゆっくり教会に向かう。
(警備でこっちを見ているのは数人だけか。陽動に備えている訳だな。こりゃ少佐に任せておいた方がよさそうだ)
「そこで止まれ!」
 警備員の一人が二人に近づいてくる。
(ごついねー。こいつなら熊でも倒せそうだ。スイーパーに依頼する必要なんてあるのか?)
 入り口から数メートル離れたところで立ち止まり、近づいてきた警備員に少佐が話しかける。
「依頼を受けたスイーパーだ」
 少佐を一別した後、じろじろと俺を品定めしている。にっこりと笑って見せたが余計に睨み付けられてしまった。まったく、愛想のない奴だ。
「そっちは?」
「助手だ」
「助手がいるなんて聞いてないぞ」
「今度の仕事は急ぎだと聞いている。一人より二人の方が仕事が早いだろう」
「……」
 どうやら、少佐の顔は事前に知っていたらしくほとんど注意を払っていない。一方、俺の方は予定外だったせいかあからさまに怪しんでいる素振りだ。
「仕事のキャンセルならこのまま帰ってもいいが?」
「まて、いいだろう。そこに並べ。ボディチェックをする」
 少佐のチェックを始めると肩のカラスが「カァ」と鳴いた。ぎょっとする警備員。
「い、生きてるのか?」
 その問いに答えるようにカラスは飛び立ち、少佐の周りを一周すると再び肩に止まり警備員を睨め付けた。
  

Posted by Syousa Karas at 06:03Comments(2)小説

2009年09月06日

連続小説 2) カラスを連れた女

小説の続きです。
少佐のイメージモデルは言わずと知れた(?)攻殻機動隊の素子さんです。
私のアバター名「Syousa」もここから取りました。
この方です。


攻殻機動隊は最近、BDで発売されました。人気があるんですねー(^^
http://www.kokaku-s.com/
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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

2) カラスを連れた女
 「あれ?」
 ポケットから引っ張り出した依頼書を見てエディが困った顔をする。どうやら、あの騒ぎの際に見ていた依頼書をポケットに突っ込んでしまったようだ。
「こりゃまずいな。返しに行くか」
 そう呟くと振り返り、来た道を戻り始めるが少し歩いた所で立ち止まる。
(まてよ。今返しに行ってもそれどころじゃないよな。依頼人は急いでるだろうし、俺も金がいると……)
 依頼書を見つめ考え込むエディ。
「いらないのなら、私が貰おうか?」
 突然、考えを見透かされたような台詞をかけられ、依頼書から視線を上げると怪しげな女がこちらを見つめている。
 黒いジャケットとミニスカート、光沢を持ったストッキング。そして肩にはカラス。
(カラス? どこかで見たような)
「もしかしてそのストッキング、SSケプラー製かい?」
「ああ、よく判ったな」
「すごいのをはいてるもんだ」
(SSケプラーというのは防弾・防刃機能を1mmにも満たない厚さで実現する素材のことで、通常は柔軟性があり動きを妨げるような事はないが、銃弾のように高速な物体がぶつかった際に硬化するという特性を持つ。一般的に購入できる繊維の中では最も高価で、俺の年収では一足も買えないだろう。相当稼いでるって事だな。危険な仕事で……)
 そんな思案を知ってか知らずか、女はぬけぬけと言い放つ。
「こいつは滅多なことでは伝線しないから、彼女にプレゼントすると喜ばれるぞ」
(そんな物をはいてる様な、物騒な女と付き合うのは御免だよ。ま、それ以前に俺の懐具合じゃ買えないがね)
「あんたは確かカラス、いや少佐だったかな?」
「好きな方で呼んでくれていい。それよりどうするんだその依頼。やるのか? やらないのか?」
 性急な女の問いに慌てて答える。
「ちょっと待ってくれ。実はこれ勝手に持ってきちまったもんなんだ。マスターに返しに行こうかと思ってたところでね」
 女はエディを見てにやっと笑う。
「金がいるんじゃないのか?」
「うっ、なぜそれを?」
「普段こっちの斡旋所じゃ見かけないお前がやって来たって事は、直ぐに金が必要で仕事が欲しいからじゃないのか?」
(ちっ。読まれてるな)
「よし判った。その仕事、二人で受けようじゃないか。マスターには私の方から断っておく」
 そう言うと、くるっと向きを変えて歩き出す女に少々むっとしながら声をかける。
「おいおい。俺はまだ何にも言っちゃいないぞ。あんたと組むなんて」
 女は立ち止まりもせずにこう答えた。
「よければ少しくらい貸してあげましょうか?」
「……」「仕事料は折半だからな。それと部屋代六ヶ月分と車の質請け代を貸してくれ」
「いいわよ」
 歩き続ける女の後を追いかけ、ついにやけた声を出す。
「おいおい、ずいぶん気前がいいな。俺に惚れたのか?」
「金は仕事料から引いておくぞ」
「まぁ、それはそうだな……」
「それじゃあまず車を出して、私の事務所に来てくれ。これで足りるか?」
 女が立ち止まり紙幣と名刺を差し出す。名刺を見ると一等地に建つ高級オフィスビルの名前が書いてある。
「ほー。いい所に事務所を構えてるんだな」
「誰かさんと違って負けるギャンブルはしないからな」
「……」
 言い返す言葉を考えていると女は眉をひそめ。
「何をしている?」
「え?」
「車を出して事務所だ。判ったか?」
「あ、ああ悪かった。それじゃあ行ってくる」
 すっかり主導権を取られてしまった。金を借りちまったし仕方ないか。

 小走りで遠ざかっていくエディの後ろ姿を見ながら女が呟く。
「言葉遣いに気をつけろ。怪しまれる」
「あら、いいじゃない。あなたも少しは女らしい言葉遣いを覚えた方がいいわよ」
「私は十分、女らしいつもりだが?」
「うふふ。確かにそうかもね」
「……」
「どうしたの黙り込んじゃって」
「なんでもない。いくぞ」
  

Posted by Syousa Karas at 06:03Comments(4)小説

2009年09月05日

創作小説を一つ

 SL世界をモチーフに小説を書きました。
 ただしそのままでは何でも有りになってしまうので、いくつか制限を盛り込んでいます。
 例えば、「人は空を飛べない」「単体でTPはできない(魔法やテクノロジーを使えば可能)」等です。

 実は1年以上前にSL内で配布したのですが、全くといっていいほど反応なし……。そのまま捨てるのも悲しいので、今回加筆修正してブログに載せる事にしました。楽しんでいただければ幸いです。

 ちなみにエディのイメージモデルはCOWBOY BEBOPのスパイクさん(の若い頃)です。
 脳内補完して下さいw
 この方です。


DVDBOXも発売されていますのでご紹介。
http://www.bandaivisual.co.jp/dbeat/bebop/index.html
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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』

1) 掃除屋の溜まり場
 どこにでもありそうな下町の古びた酒場。奥のテーブルで数組の客が酒を飲んでいる。入り口付近には立ち飲み用のテーブルがいくつか並んでいて、男が書類の束を乱暴にめくっていた。
「こら、エディ。もっと丁寧に扱わんか。」
 カウンターの中でサンドイッチを作っていた年寄りが声を荒げる。
「わるいねマスター。あせってるもんでつい。しかし、ろくな依頼が無いなー」
 皿に盛ったサンドイッチを銀のトレーに乗せていたマスターが動きを止め、上目遣いに男を見る。
「そんなこと無かろう。スニッキーの酒場の用心棒なんぞお前に合ってるんじゃないか?」
 エディと呼ばれた男が依頼書の束から目を離さずに答える。
「多分雇って貰えないんじゃないかな。この間、用心棒をぶちのめしちまったし」
「なんじゃ、それで依頼が来とるのか。それじゃ、商隊の護衛はどうじゃ? 結構いい金になるぞ」
「うーん。金が入るのが一月先じゃあねー」
「我が儘な奴じゃの。なんならわしが掛け合って前金を出して貰おうか?」
「そりゃ有り難い。うん? これは?」
 一枚の依頼書をよく見ようと身を乗り出すのとほぼ同時、酒場のドアが音もなく開いたかと思うと何かが放り込まれた。それはころころと転がりエディのいるテーブルの方に転がっていく。
「爆弾だ!」
 刹那。マスターの頭を押さえ込むように奥のカウンターに飛び込む。
 一瞬間をおいて爆風がおこり、轟音が響き渡る。
 年代物の酒場は大きく揺れ、大量のほこりが舞う。
 カウンターの中で体を調べ、怪我が無い事を確認すると頭の上に乗っていたレタスのゴミを払って口に放り込み、銀色に輝くトレーをゆっくりと頭上に持ち上げる。
 薄く曇ったトレーに散らかった店内が写り込む。さっきまでいたテーブルはめちゃくちゃに壊れ、依頼書が辺りに散乱している。
 トレーを回転させて辺りを見渡していると、隣でうずくまっていたマスターが呟く。
「一発だけだったようじゃな」
 体のほこりを払いながらゆっくり立ち上がりレタスをかじる。
「これがゆで卵ならハードボイルドなんだろうな」

 フォルテモード伯爵領、下町にあるトラブルスイーパーの斡旋所。
 爆風でめちゃくちゃになった店内。物陰に隠れていた客達が現れる。皆ほこりまみれだ。
「ちくしょう、どこのどいつだ!」
「ぶっ殺してやる」
「誰か恨みでも買ってる奴がいるんじゃないのか?」
「ばーか、そんなのはここにいる全員だろうが」
「ちげーねぇ!」
 テーブルや椅子が散乱した店内に下卑た笑いがこだまする。
 一人の男が急にまじめな顔になり、マスターに話しかける。
「で、親父どうするんだ?」
 皆の視線がマスターに集中する。
「うーん」
 男達がマスターの周りに集まってくる。一癖も二癖もという表現がぴったりの風貌だ。
「犯人を突き止めて、このお返しをするんだろうな?」
「そうさなー」
 乗り気で無さそうなマスターを見て、男は不思議そうな顔をする。
「何悩んでるんだ? 親父の依頼なら安くしとくぜ」
「おうよ、いつも世話になってるからな。そうだろみんな?」
 店内の客が声を揃えて答える。
「おう、まかしとけ!」
「スイーパーの斡旋所に仕掛けてくるような奴は、ただじゃおかねえ」
「そうだそうだ!」
 勢いづく客達にマスターが呟く。
「まずはちらかった店内の掃除から頼むかのー」
 皆、沈黙する。
「いつも世話になってるんじゃろ? ほら片付けた片付けた」
「マジかよ。仕事料はでるのか?」
「飯くらい食わせてやるよ。ほらそっちのテーブルと椅子」
「しかたねえなー」
 ぶつぶついいながらも片付けを始める客達を尻目にエディはこっそり店を後にする。
(マスターわるいな。昨日のカードですっからかんなんだ。飯もありがたいけどまずは金、金。しゃあない。新しく出来た斡旋所にでも行ってみるか)
 店の外に集まった野次馬をかき分けて街の中心部に向かう事にする。途中、軍警察の車とすれ違う。
(今頃お出ましかよ。ま、こんな下町の、おまけにスイーパーの斡旋所が現場じゃ点数も稼げないって事か)
 しばらく歩くと賑やかな中心街に入る。今時のお洒落な格好をした連中でごった返している。ここで爆弾騒ぎが起きたら軍警察も張り切って駆けつけてくるんだろうな。
 そんなことを考えつつ何気にポケットに手を突っ込むと指先に触れる物がある。
 おや?という顔をしてポケットから一枚の紙を引っ張り出す。依頼書だった。
  

Posted by Syousa Karas at 06:03Comments(1)小説