2009年09月12日
連続小説 8) ドールハウス
ラファエルさん(本文とは関係ありません・・・)



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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』
8) ドールハウス
「どうぞ、お入り下さい」
古めかしい立派なドアの前でソフィアが立ち止まり、二人のスイーパーを中に招き入れようとしている。
「あの俺、じゃない私はここで待ってましょうか? ご令嬢のお部屋に入るのは気が引けますので」
遠慮がちなエディの申し入れに、笑みを浮かべて首を振るソフィア。
「いいえ、ご一緒にどうぞ。調査のためにいらしたんですもの。気になさらないでください」
「そうですか? それでは、失礼して」
部屋に入るなりエディが立ち止まる。
「な、なんですかこれは?」
そこには巨大な屋敷の模型が鎮座していた。
プールほどもある白い大理石の台座の上には、子供なら中に入れるだろうと思われる屋敷の模型が設置され、その周囲には様々な木々や花畑なども再現されている。
昨日ソフィア様がドールハウスを持ち出そうとした跡がなかったとおっしゃっていたが、これを持ち出そうと思ったら相当でかいトラックと数台の重機が必要になるだろう。それとも、中央の屋敷部分だけをドールハウスと呼ぶのだろうか? それにしたって人手だけでは無理に違いない。
「これがアイリクのドールハウスです」
「ドールハウスってこんなにでかいものなんです? それにハウスというより、この敷地全部の模型のような?」
「ええ、初代伯爵時代の敷地を再現した物らしいです。生まれたときから目にしているのでさほど気になりませんが、やはり大きいですか?」
「ええ、そりゃあもう。俺の部屋より広いですよ。こんな大きい物見たことあります?」
そう言って少佐の方を振り返ると、瞬きもせずじっとドールハウスを凝視している。
「少佐?」
少佐は微動だにしない上に、肩のカラスが小刻みに揺れている。
「少佐、カラスの顔色が悪いというか具合が悪そうですよ?」
その言葉で我に返ったのか、カラスにそっと手を添える。
「すまない。あまりに立派なドールハウスだったので、つい見入ってしまった」
そう言うと何事もなかったかのようにソフィアに向かって話しを始めた。
「ソフィア様、アイリクは普段ここに置いてあったのですね」
「ええ、そうです。この場所で私と屋敷を見守ってくれていました」
ソフィア様が屋敷全体を見渡す位置を示す。どうやらアイリクは建物の中ではなく外に置かれていたようだ。となるとやはりこれ全部がドールハウスということなのだろう。
「しかし、とんでもなく立派なものですね。博物館でもお目にかかった事がないですよ。少佐が見入るのも判るなあ。中の人形もまるで生きてるかの……」
一瞬、屋敷の中の人形と目が合ったような気がして瞬きする。よく見ようとして身を乗り出すと人形の姿は無くなっている。
「あれ? 中の人形がどっかにいっちゃいましたよ?」
「ええ、このドールハウスには色々な仕掛けが施されていて中の人形も動くのです。ほらこっちの部屋からでてきました」
手に何かを持った人形が部屋からでてきて別の部屋に向かっていく。
「すごいですね。こりゃあいくら見ていても飽きないや。ねえ、少佐?」
「……、ああそうだな。ソフィア様ありがとうございました。この部屋と霊廟はどの辺りになりますか?」
「このお部屋はこの辺りですね。霊廟はこのドールハウスにはないのですが、丁度この辺りかと思います」
ソフィアがドールハウスの中心部と外の空間を続けて指し示す。
「なるほど判りました。ところで、この部屋の下はどうなっていますか?」
「下? といいますと?」
「このお部屋の下に別のお部屋は有りますか?」
ソフィアしばらく考える。
「いえ、この下に部屋は無いと思います。別の部屋には地下室があるところもありますが、ここには無いはずです」
「判りました。ではそろそろ霊廟に向かいましょうか。ところでソフィア様お願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
「どうもこのカラスの具合がすぐれないので、ご迷惑でしょうが霊廟にいる間預かっていただけないでしょうか」
「ええ、もちろん。獣医の先生をお呼びしますので見て頂きましょう」
「いえ、疲れているだけのようなので、よろしければここで眠らせてやって頂けませんか。いたずらをするような奴ではありませんので」
「それでよろしければ、どうぞこちらに」
止まり木になりそうな椅子の背もたれにカラスを止まらせ三人は部屋を出る。
部屋の外にはベルモント氏が待っていた。早速少佐が問いただす。
「調べは付きましたか?」
「はい」
「どなたでしたか?」
沈黙するベルモントをソフィアが促す。
「いいのよ、ベルモント。私にも察しがつきました。お母様なのね?」
「……。仰る通りでございます」
少佐が軽く頷き更に質問を続ける。
「それで夫人は人形をどこに? 霊廟ですか?」
「はい、その通りでございます」
「なるほど。それでは夫人は人形を取りに再び霊廟に向かったと考えられますね。そして何らかの事情で戻れなくなったと」
「そのように思われます」
「では霊廟の中で夫人と人形を探すことになりますが、何か注意することはありますか? 人形の目に触れない以外に」
間をおかずにソフィアが答える。
「中に入ってしばらく進むと複数の燭台が並んだ部屋につくと聞いております。季節によってそのうちの一つにだけ火を灯すようにとも。今日の日付ですと、右から二番目の燭台になります」
「それはどなたから?」
「母から聞きました。母はお爺さまから教えて頂いたと申しておりました」
「なるほど、それは重要な手がかりですね。全ての罠が無効になるとか、そういう仕掛けかもしれません」
少佐、じっとソフィアを見つめる。
「ソフィア様。失礼を承知で一つお約束をお願いできますか?」
「はい、なんでしょう?」
「霊廟から出てきた後、我々に手出しはしないと約束していただきたいのです」
きょとんとした表情を浮かべるソフィア。
「それはもちろん。そのような事は決していたしません」
「伯爵家の名誉にかけて誓っていただけますか?」
「伯爵家の名誉に誓って、あなた方に危害を加えるようなことはしないとお約束します」
「ありがとうございます。申し訳ありませんが、ベルモント氏にも伯爵家とソフィア様の名誉に誓っていただけないでしょうか」
ベルモントの顔がぴくっと引きつる。
「ベルモント? 私の誓いに不満があるのですか?」
「いいえそのようなことは。伯爵家とソフィア様の名誉に誓って、お二人が無事奥方様を救助なさったあかつきには決して危害を加えないと誓います」
「少佐、これでよろしいでしょうか?」
「結構です。大変不躾なお願いを聞いていただいて感謝します。それでは霊廟に向かいましょう」



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『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』
8) ドールハウス
「どうぞ、お入り下さい」
古めかしい立派なドアの前でソフィアが立ち止まり、二人のスイーパーを中に招き入れようとしている。
「あの俺、じゃない私はここで待ってましょうか? ご令嬢のお部屋に入るのは気が引けますので」
遠慮がちなエディの申し入れに、笑みを浮かべて首を振るソフィア。
「いいえ、ご一緒にどうぞ。調査のためにいらしたんですもの。気になさらないでください」
「そうですか? それでは、失礼して」
部屋に入るなりエディが立ち止まる。
「な、なんですかこれは?」
そこには巨大な屋敷の模型が鎮座していた。
プールほどもある白い大理石の台座の上には、子供なら中に入れるだろうと思われる屋敷の模型が設置され、その周囲には様々な木々や花畑なども再現されている。
昨日ソフィア様がドールハウスを持ち出そうとした跡がなかったとおっしゃっていたが、これを持ち出そうと思ったら相当でかいトラックと数台の重機が必要になるだろう。それとも、中央の屋敷部分だけをドールハウスと呼ぶのだろうか? それにしたって人手だけでは無理に違いない。
「これがアイリクのドールハウスです」
「ドールハウスってこんなにでかいものなんです? それにハウスというより、この敷地全部の模型のような?」
「ええ、初代伯爵時代の敷地を再現した物らしいです。生まれたときから目にしているのでさほど気になりませんが、やはり大きいですか?」
「ええ、そりゃあもう。俺の部屋より広いですよ。こんな大きい物見たことあります?」
そう言って少佐の方を振り返ると、瞬きもせずじっとドールハウスを凝視している。
「少佐?」
少佐は微動だにしない上に、肩のカラスが小刻みに揺れている。
「少佐、カラスの顔色が悪いというか具合が悪そうですよ?」
その言葉で我に返ったのか、カラスにそっと手を添える。
「すまない。あまりに立派なドールハウスだったので、つい見入ってしまった」
そう言うと何事もなかったかのようにソフィアに向かって話しを始めた。
「ソフィア様、アイリクは普段ここに置いてあったのですね」
「ええ、そうです。この場所で私と屋敷を見守ってくれていました」
ソフィア様が屋敷全体を見渡す位置を示す。どうやらアイリクは建物の中ではなく外に置かれていたようだ。となるとやはりこれ全部がドールハウスということなのだろう。
「しかし、とんでもなく立派なものですね。博物館でもお目にかかった事がないですよ。少佐が見入るのも判るなあ。中の人形もまるで生きてるかの……」
一瞬、屋敷の中の人形と目が合ったような気がして瞬きする。よく見ようとして身を乗り出すと人形の姿は無くなっている。
「あれ? 中の人形がどっかにいっちゃいましたよ?」
「ええ、このドールハウスには色々な仕掛けが施されていて中の人形も動くのです。ほらこっちの部屋からでてきました」
手に何かを持った人形が部屋からでてきて別の部屋に向かっていく。
「すごいですね。こりゃあいくら見ていても飽きないや。ねえ、少佐?」
「……、ああそうだな。ソフィア様ありがとうございました。この部屋と霊廟はどの辺りになりますか?」
「このお部屋はこの辺りですね。霊廟はこのドールハウスにはないのですが、丁度この辺りかと思います」
ソフィアがドールハウスの中心部と外の空間を続けて指し示す。
「なるほど判りました。ところで、この部屋の下はどうなっていますか?」
「下? といいますと?」
「このお部屋の下に別のお部屋は有りますか?」
ソフィアしばらく考える。
「いえ、この下に部屋は無いと思います。別の部屋には地下室があるところもありますが、ここには無いはずです」
「判りました。ではそろそろ霊廟に向かいましょうか。ところでソフィア様お願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
「どうもこのカラスの具合がすぐれないので、ご迷惑でしょうが霊廟にいる間預かっていただけないでしょうか」
「ええ、もちろん。獣医の先生をお呼びしますので見て頂きましょう」
「いえ、疲れているだけのようなので、よろしければここで眠らせてやって頂けませんか。いたずらをするような奴ではありませんので」
「それでよろしければ、どうぞこちらに」
止まり木になりそうな椅子の背もたれにカラスを止まらせ三人は部屋を出る。
部屋の外にはベルモント氏が待っていた。早速少佐が問いただす。
「調べは付きましたか?」
「はい」
「どなたでしたか?」
沈黙するベルモントをソフィアが促す。
「いいのよ、ベルモント。私にも察しがつきました。お母様なのね?」
「……。仰る通りでございます」
少佐が軽く頷き更に質問を続ける。
「それで夫人は人形をどこに? 霊廟ですか?」
「はい、その通りでございます」
「なるほど。それでは夫人は人形を取りに再び霊廟に向かったと考えられますね。そして何らかの事情で戻れなくなったと」
「そのように思われます」
「では霊廟の中で夫人と人形を探すことになりますが、何か注意することはありますか? 人形の目に触れない以外に」
間をおかずにソフィアが答える。
「中に入ってしばらく進むと複数の燭台が並んだ部屋につくと聞いております。季節によってそのうちの一つにだけ火を灯すようにとも。今日の日付ですと、右から二番目の燭台になります」
「それはどなたから?」
「母から聞きました。母はお爺さまから教えて頂いたと申しておりました」
「なるほど、それは重要な手がかりですね。全ての罠が無効になるとか、そういう仕掛けかもしれません」
少佐、じっとソフィアを見つめる。
「ソフィア様。失礼を承知で一つお約束をお願いできますか?」
「はい、なんでしょう?」
「霊廟から出てきた後、我々に手出しはしないと約束していただきたいのです」
きょとんとした表情を浮かべるソフィア。
「それはもちろん。そのような事は決していたしません」
「伯爵家の名誉にかけて誓っていただけますか?」
「伯爵家の名誉に誓って、あなた方に危害を加えるようなことはしないとお約束します」
「ありがとうございます。申し訳ありませんが、ベルモント氏にも伯爵家とソフィア様の名誉に誓っていただけないでしょうか」
ベルモントの顔がぴくっと引きつる。
「ベルモント? 私の誓いに不満があるのですか?」
「いいえそのようなことは。伯爵家とソフィア様の名誉に誓って、お二人が無事奥方様を救助なさったあかつきには決して危害を加えないと誓います」
「少佐、これでよろしいでしょうか?」
「結構です。大変不躾なお願いを聞いていただいて感謝します。それでは霊廟に向かいましょう」
Posted by Syousa Karas at 06:03│Comments(2)
│小説
この記事へのコメント
わくわく
いよいよお人形さんの秘密に近づいたのかなぁ^^v
いよいよお人形さんの秘密に近づいたのかなぁ^^v
Posted by tim at 2009年09月12日 10:41
残りあと4回!
投げ出さずに最後まで読んでね(^^;
投げ出さずに最後まで読んでね(^^;
Posted by Syousa Karas
at 2009年09月12日 15:10
