2009年09月09日
連続小説 5) 少佐の推理
どんどん話が長くなるw
カラス(無口)です。

-------------------------------------------------
『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』
5) 少佐の推理
車を走らせるとすぐに少佐が話しを始めた。
「エディ。お前斡旋所の爆破騒ぎの時、現場に居合わせたんだよな? 何か変わったことはなかったか?」
「変わったことねー。爆弾が放り込まれる以上に変わったことは無かったと思いますが」
「目立たないことでいい、最初から思い出してくれ」
「えーと、俺が依頼書を覗いていたら爆弾だ! と声が聞こえて、カウンターの中に飛び込んだらどーんと爆発が」
少佐が片手を上げて制止する。
「爆弾だ、と声をかけたのは誰だ?」
「え? そりゃスイーパーの誰かじゃ」
「その誰かとは誰だ?」
「いや、そこまでは」
「そいつは何で爆弾だと判ったんだ? ご丁寧に爆弾と書かれていたのか?」
「そんなことは無いでしょうけど」
爆発は俺のいたテーブルの辺りで起きていた。あそこに転がってきた爆弾が見える位置というとマスターくらいしか思いつかない。しかしあの声は……
「お前これがなんだか判るか?」
少佐がバッグから口紅を取り出し目の前にかざす。
「何って口紅でしょ?」
「これが爆弾だ」
「え!?」
驚いてハンドルを切り損い車が蛇行する。
「馬鹿者! 気をつけろ!」
「だって少佐がいきなり。どういう事です?」
「第一に、いかにも爆弾ですといった風体の爆弾など軍隊か工事現場で使う物くらいだろう」
「うーん、そう言われてみればそうかもしれませんね」
「第二に、仮に爆弾だと見抜いた者がいたとして、爆弾だと叫ぶより先に体が反応する。さっきのお前のようにな」
「そりゃ自分の身が可愛いですから」
「第三に、軍で使用する物を含め大抵の爆発物は相手を殺傷する事を目的とする」
「確かに」
「今回の爆破騒ぎで死傷者はでたのか?」
「うーん。かすり傷くらいはあったかもしれませんが、重傷者はいないかと」
少佐、やはりという顔で頷き言葉を続ける。
「今回の爆破騒ぎ、出来るだけ被害が出ないように気を遣っているとしか思えん」
「それ、どういう事です?」
「最初からスイーパーの誰かを狙ったとか、斡旋所そのものを破壊する意志は無かったという事だ」
「それじゃあ犯人の狙いは? まさか」
「そう、伯爵家の依頼書。そう考えれば辻褄が合う」
「それはいくらなんでも、都合よく考えすぎじゃ?」
「どの辺がそう思う?」
「だって依頼書が目的なら、依頼書そのものを奪ってしまえばいいでしょう。その方が簡単だし目立たない」
「それができないとしたら?」
「できないって?」
「この依頼は伯爵家正当後継者、いや今となっては伯爵家の正当な血筋の唯一の持ち主の意志だということだ」
「唯一?」
少佐があきれた表情を浮かべる。
「……。お前本当に政治とか上流階級とかに興味なさそうだな」
「え? それは確かにそうなんですが。だって、当代の伯爵がいるわけですし」
「それが知らないというんだ。いいか、今の伯爵は婿養子で正当な血筋ではない」
「てことは、夫人の方が?」
「順を追って話してやる。既に亡くなられているが先々代の伯爵、この方は伯爵位三十年で引退され実子の先代伯爵に爵位を譲られた」
「へー、ずいぶんいさぎ良い人だったんですね」
「伯爵家の伝統で、最長でも三十年しか在位してはいけない事になっているそうだ」
「政治ってのは地位にしがみつくもんだと思ってましたけど、そういう人もいるんですね」
「爵位を譲られた後は悠々自適、趣味に没頭しておられたそうだが、ある日先代の伯爵が急死する。ソフィア様はこの先代伯爵と今の夫人のお子様だ」
「つまり正当な血筋ってことですね」
「そうだ。ソフィア様は当時確か一歳を過ぎたばかりで当然爵位は継げない。そこで先々代の意向で夫人に婿を取ることにした。これが現伯爵というわけだ」
「つまり、今の伯爵も夫人も伯爵家の血筋ではないと」
「現伯爵は遠縁にあたるそうだが、血は薄いのだろうな」
「ふーむ、するとどうなります?」
「伯爵家に代々使えてきた者にとっては、現伯爵よりソフィア様の方が重要。ということもあるだろうな」
「え? それってもしかして」
「ソフィア様が私に依頼を出し、伯爵がそれを阻止しようとした場合、命令を受けた者はジレンマに陥ることになる」
「どっちの命令を聞くかで?」
「そうだ。現伯爵の命に背くわけにも行かず、かといってソフィア様直々の依頼書を奪ってしまってはソフィア様の意志に背くことになる」
「究極の選択ってやつですね」
「結果が今の事態だ。私宛の依頼書を斡旋所に回す。私が依頼書を探しに乗り出すと斡旋所で騒ぎを起こし探させないようにする。まるで子供の嫌がらせだ」
「てことは俺が依頼書を持ち出したのは」
「相手にとっては望んでいた結果ともいえるな。お前が依頼を受けのこのこと教会に現れたら、斡旋所に依頼を出した覚えはないと突っぱねることもできるし、お前に任せた上で失敗してくれれば更に満足しただろう」
「くそっ! 相手の思うつぼってことか」
「お前だけでも必ず失敗したとは思わんが、伯爵家の内情などまるで知らんお前では解決するのに時間はかかっただろうな」
「……、確かに」
「ところがお前は私と組んだ」
「これで相手の鼻を明かせるってわけですね! ざまーみろだ。ところで斡旋所には何をしに?」
「カメラの映像が見たい」
「カメラって防犯カメラですか?」
「そうだ、斡旋所の周囲に仕掛けてあるはずだ」
「そんなものありましたっけ?」
「あのマスターを甘く見るなよ。百戦錬磨の強者だぞ」
「えーまさか。ぼんやりした親父にしか見えませんよ」
「そこが強者の怖いところだ。さっきのベルモント氏にしてもそうだ」
「え? あの誠実そうな老人が?」
「誠実なのは伯爵家の人間に対してだけだろう。正直あの男とやり合うことになったら勝てる自信は無いぞ」
「少佐があの老人に?」
「あの老人、恐らく実行部隊の長だろう」
「ま、まさか」
「今回の事件の首謀者ではないにせよ、命令をうけて実際に動いたのはあの老人自身か少なくとも手の者と見て間違いない」
「そんな、それじゃあソフィア様は騙されてるってことですか?」
「そう言ってやるな、彼らも辛い立場なんだろう。すまじきものは宮仕えと言ってな、お前には縁が無さそうだが」
「へいへい。どうせあたしには縁がありませんよ。でも今までの話をまとめると。爆弾騒動の切っ掛けになったのは人形の紛失事件。そして指示したのは伯爵で、実行したのはベルモント氏。って事であってます?」
「大筋はな。だが伯爵以外にもう一人命令を下せる者がいる」
「もう一人って、伯爵とソフィア様以外……夫人? だって夫人はソフィア様の実の母親でしょ? なんで娘の人形探しを邪魔する必要があるんです?」
「人形を盗んだのは誰か、という話になるな」
「まさか、娘の人形を盗んだ? どうして? 金持ちなんだから宝石を売り飛ばしたいってわけでもないでしょ? それとも実は伯爵家にはお金が……いやいやいや、伯爵も夫人も呪いのことは知ってるわけですから、そんなことするわけないし」
「お前も大分事情が飲み込めてきたようだな」
「飲み込めたって。俺はそんなことはないだろうって、否定してるんですよ?」
「次のステップに進むぞ。お前、監視カメラを知ってるな」
「そりゃあ知ってますけど、どうしたんです急に?」
「伯爵家クラスになると監視カメラに死角など無い。それこそ使用人の寝室からシャワー室、トイレまで写されていると思え」
「それじゃあプライバシーなんて無いじゃないですか」
「そういうことだ。もちろん本人同意の上でだぞ。契約条件に入っているはずだ」
「うーん、それが判っていても勤めたいものなんですかねー」
「給料は良いし箔が付くからな。代々仕えている者達にとっては他に選択肢も無いだろうしな」
「しかし、それだけカメラに写されてると知っていれば、盗みを働こうとは思わないでしょうね」
「ああ、それに今回の事件はソフィア様が自室を離れたわずか数時間の事だ。アリバイなど直ぐに判ってしまう」
「なるほど」
「他国のスパイが伯爵家の防犯設備を破ったとも考えられなくはないが、それで屋敷から持ち出すことも出来ない人形一個盗んで終わりか? 伯爵の命を狙うとか他に使い道があるだろう」
「そりゃそうですね。防犯設備を強化されたらおしまいですし、奥の手ってのはいざって時に使うから効果があるもんですからね」
「そう言う事だ。わざわざ相手に防犯設備の見直しをさせるような真似はすまいよ」
「そうすると残るのは?」
「最初からカメラに写らない者達。この場合は伯爵家の三人+ベルモント氏くらいだろうな」
「カメラに写らない?」
「正確に言えば写ってはいる。しかし普通にモニターを見たり再生しても姿を確認することは出来ないということだ」
「どういうことなんです?」
「伯爵家の者が今どこにいて、どういう行動を取っているのか、使用人達に知られずに自由に動くためだ」
「使用人のトイレの中まで覗いといて、自分たちはがっちりガードするわけですか。金持ちってのはまったく」
「別に伯爵家の人間がモニターを覗くわけではあるまい。それにそう言う場所のチェックは同性がするだろうしな。第一、伯爵の秘密を使用人が知ったらお互い不幸になるだろ?」
想像を巡らせてみる。確かに色々不都合がありそうだ。
「それはあるかもしれませんね。でもそれだと万が一伯爵家の人間が誘拐されたりすると困りませんか? せっかくカメラがあるのに写らないんじゃ」
「そこでフェアリーモードというのがある」
「フェアリーモード?」
「普段は見えない者が見えるようになる設定だ。もっとも使用人の間ではゴーストモードと呼ばれることが多いらしいがな」
「フェアリーにゴーストね、どっちも関わり合いたくないですな。でも、ちょっと待って下さい。てことは、今回の事件。そのフェアリーだかゴーストだかの設定にすれば解決ってことですか?」
「ソフィア様の部屋の中にまでカメラが仕掛けてあるとは思えんが、少なくとも部屋の前の廊下には設置してあるだろう。それを見れば該当の時間に、誰が部屋に入って出ていったのかはすぐ判るだろうな」
「だとしたら、なんでわざわざスイーパーに依頼するんです? 自分たちで解決できるじゃないですか」
「知らないからだろう」
「知らないって何を?」
「屋敷の中が至る所、カメラで監視されていることをさ」
「ソフィア様が……って事、です?」
「そうだ。使用人の寝室やシャワー室、はてはトイレの中まで監視しているなんて、あの令嬢が知っていると思うか?」
「そういう下世話な話をソフィア様にする者はいないって事ですか」
「ソフィア様が当主にでもなられれば話は別だが、今の時点でお話ししても害はあっても利はあるまい」
「害と言うと?」
「そんな事はおやめなさい! とでも言われたらどうする? 命令を無視するか? それとも言われるままに屋敷のカメラを取り外すか? 警備体制がぼろぼろになるぞ」
「うーん、あの令嬢なら言いだしそうな気もしますね。家宝の人形よりも使用人の命を優先させたくらいですし。あ、でもベルモント氏がいるじゃないですか。今回の依頼だってベルモント氏経由で出てるんだし、彼が説明すれば」
「もちろん彼には全て判っているさ。だがいったい何と説明するんだ? 人形を盗んだのはあなたのご両親のどちらかに違い有りません。フェアリーモードで現場を押さえましょう。とでも言うのか?」
「そんな露骨な言い方はしないでしょうけど、うーん」
「ベルモント氏にすれば、カメラの映像をチェックした時点で、自分とソフィア様を除けば該当者が二人しかいないことは承知だ。しかしそれをソフィア様に告げることは出来ない。そんなことをすれば伯爵と夫人に対する背信行為だからな。かと言ってそれを説明できない以上、ソフィア様が私に依頼を出すことを止めることも出来ない。だから自分で依頼を出しておきながら同時にその妨害もするという茶番を演じたわけさ」
「うーん、そうだとするとなんだか彼が哀れに思えますね」
「恐らく時間稼ぎをしている間に伯爵と夫人に状況を説明して、人形を戻すなりソフィア様に事情を説明してもらうつもりだったんだろうな」
「つもりだった?」
「人形が消えたのは五日前だとおっしゃっていただろう。その間に解決していないと言うことは」
「うまくいかなかったと?」
「どうだろうな。一応多少の時間的余裕を与えるために、今日でなく明日伺うと伝えたわけだ」
「ああ、そういう理由だったんですか」
「ベルモント氏にこちらの意志は通じただろうから、今日のうちにもう一度話してもらって。うまくいけば明日お屋敷に到着した時点で既に解決済み、となるかもしれん」
「なんだか微妙な仕事っていうか、仕事した気分じゃないですね」
「上流階級の事件というのは案外こういう事が多い。元々防犯設備はしっかりしてるから外部犯の可能性は低いし、息子が家宝の品を持ち出して売っぱらったとか、亭主が浮気相手にプレゼントしたとかな。本人達に罪の意識は無かったり計画的でもないから直ぐにばれてしまう」
「なんだか今まで俺がかかわってきた仕事とはずいぶん違う感じですね」
「だろうな。荒事より事件を穏やかに解決する。できれば事件そのものがなかった事にする、そのくらいの心がけで丁度良い」
「事件をなかったことに? そんな事できるんですか?」
「考えてもみろ。今回の事件だって、仮に夫人が人形を持ち出したとしてどこが事件なんだ? 母親が娘の人形を黙って持ち出しました。で逮捕されるか? それにこの件は警察に連絡したわけでも無い。スイーパーに探してくれと依頼しただけだ。人形が無事見つかればあとは家族の問題。公にする必要など、なにもないだろう?」
「確かにそういう言い方をすれば事件じゃないですね。うちの親も俺に黙って何か持ってくなんてしょっちゅうでしたし」
「逆じゃないのか? お前が親の金を持ち出したとか」
「え? やだなー、そんなことは……数えるくらいですよ。でも人形盗難の方はそれでいいとして、爆破事件の方はそうはいかんでしょう? 大したこと無いとはいえ多少の被害はあったでしょうからね。軍警察も出張ってましたし」
「それは微妙な話と言えば微妙だな。もし伯爵家が指示を出したと言えばそれはそれで片付くが」
「と言うと?」
「この辺一帯は伯爵家の所領だからな。気に入らない家があったから吹き飛ばしたと言われれば誰も逆らえんよ。軍警察自体、伯爵の配下なんだし」
「そりゃあ、また強引な話ですね」
「まあな。戦争中でもあるまいし、邪魔な家を爆破した。では民衆に不安が広がるだろうから、知り合いのマスターを驚かそうと思ったら火薬が多すぎて騒ぎになってしまった。とでも言って賠償金を多めに包むくらいが落としどころかな」
「そんなもんで片付くんですかね?」
「伯爵家は常連客だと言っていたし、金額次第で治まるところに治まるだろうよ。ともかくそう言うことだから、お前もこの件を誰かに話したりするなよ。噂が広まったりしたら信用台無しだからな」
「了解しました。もしかして、今までの説明って俺に喋らせないために?」
「ああ。単に誰にも言うな。とだけ言われると逆に喋りたくなるだろう? だから噛んで含むように説明してやったんだ、理解したか?」
「よーっく判りました。しかしあれですね、現場にさえ行っていないのに、よく色々判っちゃうもんですね」
「判ってなどいないさ。可能性の一つを示唆したにすぎん。そう考えればピースが埋まる。それだけのことだ」
「そういうもんなんですか」
「そういうものだ。もちろん別の可能性だってある」
「例えば?」
「今回の事件、全てを仕組んだのはソフィア様」
驚いてハンドルを切り損ねる。じろりと少佐に睨まれる。
「ま、まさかそんなこと!」
「人形が無くなったこと自体狂言だったとしたら?」
「そんな! だって動機がないでしょう?」
「今の伯爵が実の父親でないことは恐らくご存じだろう」
「まあ、もう子供じゃないんだし。知らされているでしょうね」
「その男を父と呼び、その男が伯爵と呼ばれることに我慢が出来なくなったとしたら?」
エディ、黙り込んでしまう。
「このまま何事もなければ、今の伯爵はあと十年以上在位し続ける可能性だってあるんだぞ」
「しかし、だからといって。あのお姫様がそんな大胆な行動が取れるようには見えませんでしたけど」
「ベルモント氏に特殊な英才教育を受けて育ったとしたら?」
「特殊な英才教育?」
「例えば、人心掌握術。お前、あのお姫様に心を動かされなかったか? この人の役に立ちたいとか」
「そりゃー、あれだけ可憐な少女を見れば男なら誰だって」
「私もそう思った」
「え、少佐も?」
「ああ、この少女の力になりたいとな」
「だったらそれでいいじゃないですか、小難しく考えなくても」
「本当にそれで良いのか? 結果的に何の罪もない伯爵を陥れることになってもそう言えるか? この少女のためなら構わないと」
「そ、それは」
「ま、ソフィア様が仕組んだとするなら伯爵が潔白と言うことはないだろうがな」
「どういうことです?」
「狂言を仕組んだ目的は、外部の我々を招き入れること。そして監視カメラの映像を確認することだろう」
しばらく考えて首をひねる。
「すいません、判りません」
「自分が屋敷を留守にした数時間の間に何かあった。それを確認するためにはフェアリーモードを使うしかない。しかし理由も無しに使うわけにも行かない。だから人形が消えたことにして我々を雇い、更に斡旋所で爆弾騒ぎを起こし事件に裏があるように思わせる。そして我々の口からフェアリーモードを使うよう助言させる。ま、こういった筋書きかな」
「さっきまでの話とまるで違いますね」
「そうだな」
「どっちなんです?」
「知らんよ。可能性の話だと言っただろう。どっちも外れてるかもしれん。使用人が盗んだシナリオだって考えられる。聞きたいか?」
「無責任だなー」
「だから可能性の話だと言ってるだろう。可能性に責任など取れるか」
「うーん困ったな。俺はどうすれば」
「別に困ることはないだろう。色々な可能性があり、誰も信用できない。これが基本だろうが。それとも何か、お前はスイーパーの仕事をするとき最初から犯人を決めてかかってるのか?」
「いえ。どちらかというと何も決めてないって言うか。襲ってきた奴をぶちのめせばなんとかなると」
「つくづく、上流階級の仕事に向いて無さそうだな。襲ってきたのがドラ息子だった場合、最悪慰謝料の支払いがとんでもないことになるぞ」
「うへっ。確かに向いてないかもしれませんね」
そうこうしているうちに斡旋所に到着する。
「よし、そこに止めろ」
「斡旋所のカメラなんか確認する意味があるんですか?」
「あのなあ、推理は推理。物的証拠を集めずにどうするつもりだ? 私がこう思うからあなたが犯人でしょう! とでも言うのか?」
「ああ、いやそういう事じゃなくて。証拠が写ってるのかなーなんて」
「それを調べるために来たんだろう」
「そうでした。車ここに止めますね」
(危ない危ない。少佐が見てきたように話すもんだから、こっちはもう事件が解決した様な錯覚に陥っていた)
二人は車を降り、斡旋所に向かう。
カラス(無口)です。

-------------------------------------------------
『トラブルスイーパー エディ・ガイオット 伯爵令嬢と消えた人形』
5) 少佐の推理
車を走らせるとすぐに少佐が話しを始めた。
「エディ。お前斡旋所の爆破騒ぎの時、現場に居合わせたんだよな? 何か変わったことはなかったか?」
「変わったことねー。爆弾が放り込まれる以上に変わったことは無かったと思いますが」
「目立たないことでいい、最初から思い出してくれ」
「えーと、俺が依頼書を覗いていたら爆弾だ! と声が聞こえて、カウンターの中に飛び込んだらどーんと爆発が」
少佐が片手を上げて制止する。
「爆弾だ、と声をかけたのは誰だ?」
「え? そりゃスイーパーの誰かじゃ」
「その誰かとは誰だ?」
「いや、そこまでは」
「そいつは何で爆弾だと判ったんだ? ご丁寧に爆弾と書かれていたのか?」
「そんなことは無いでしょうけど」
爆発は俺のいたテーブルの辺りで起きていた。あそこに転がってきた爆弾が見える位置というとマスターくらいしか思いつかない。しかしあの声は……
「お前これがなんだか判るか?」
少佐がバッグから口紅を取り出し目の前にかざす。
「何って口紅でしょ?」
「これが爆弾だ」
「え!?」
驚いてハンドルを切り損い車が蛇行する。
「馬鹿者! 気をつけろ!」
「だって少佐がいきなり。どういう事です?」
「第一に、いかにも爆弾ですといった風体の爆弾など軍隊か工事現場で使う物くらいだろう」
「うーん、そう言われてみればそうかもしれませんね」
「第二に、仮に爆弾だと見抜いた者がいたとして、爆弾だと叫ぶより先に体が反応する。さっきのお前のようにな」
「そりゃ自分の身が可愛いですから」
「第三に、軍で使用する物を含め大抵の爆発物は相手を殺傷する事を目的とする」
「確かに」
「今回の爆破騒ぎで死傷者はでたのか?」
「うーん。かすり傷くらいはあったかもしれませんが、重傷者はいないかと」
少佐、やはりという顔で頷き言葉を続ける。
「今回の爆破騒ぎ、出来るだけ被害が出ないように気を遣っているとしか思えん」
「それ、どういう事です?」
「最初からスイーパーの誰かを狙ったとか、斡旋所そのものを破壊する意志は無かったという事だ」
「それじゃあ犯人の狙いは? まさか」
「そう、伯爵家の依頼書。そう考えれば辻褄が合う」
「それはいくらなんでも、都合よく考えすぎじゃ?」
「どの辺がそう思う?」
「だって依頼書が目的なら、依頼書そのものを奪ってしまえばいいでしょう。その方が簡単だし目立たない」
「それができないとしたら?」
「できないって?」
「この依頼は伯爵家正当後継者、いや今となっては伯爵家の正当な血筋の唯一の持ち主の意志だということだ」
「唯一?」
少佐があきれた表情を浮かべる。
「……。お前本当に政治とか上流階級とかに興味なさそうだな」
「え? それは確かにそうなんですが。だって、当代の伯爵がいるわけですし」
「それが知らないというんだ。いいか、今の伯爵は婿養子で正当な血筋ではない」
「てことは、夫人の方が?」
「順を追って話してやる。既に亡くなられているが先々代の伯爵、この方は伯爵位三十年で引退され実子の先代伯爵に爵位を譲られた」
「へー、ずいぶんいさぎ良い人だったんですね」
「伯爵家の伝統で、最長でも三十年しか在位してはいけない事になっているそうだ」
「政治ってのは地位にしがみつくもんだと思ってましたけど、そういう人もいるんですね」
「爵位を譲られた後は悠々自適、趣味に没頭しておられたそうだが、ある日先代の伯爵が急死する。ソフィア様はこの先代伯爵と今の夫人のお子様だ」
「つまり正当な血筋ってことですね」
「そうだ。ソフィア様は当時確か一歳を過ぎたばかりで当然爵位は継げない。そこで先々代の意向で夫人に婿を取ることにした。これが現伯爵というわけだ」
「つまり、今の伯爵も夫人も伯爵家の血筋ではないと」
「現伯爵は遠縁にあたるそうだが、血は薄いのだろうな」
「ふーむ、するとどうなります?」
「伯爵家に代々使えてきた者にとっては、現伯爵よりソフィア様の方が重要。ということもあるだろうな」
「え? それってもしかして」
「ソフィア様が私に依頼を出し、伯爵がそれを阻止しようとした場合、命令を受けた者はジレンマに陥ることになる」
「どっちの命令を聞くかで?」
「そうだ。現伯爵の命に背くわけにも行かず、かといってソフィア様直々の依頼書を奪ってしまってはソフィア様の意志に背くことになる」
「究極の選択ってやつですね」
「結果が今の事態だ。私宛の依頼書を斡旋所に回す。私が依頼書を探しに乗り出すと斡旋所で騒ぎを起こし探させないようにする。まるで子供の嫌がらせだ」
「てことは俺が依頼書を持ち出したのは」
「相手にとっては望んでいた結果ともいえるな。お前が依頼を受けのこのこと教会に現れたら、斡旋所に依頼を出した覚えはないと突っぱねることもできるし、お前に任せた上で失敗してくれれば更に満足しただろう」
「くそっ! 相手の思うつぼってことか」
「お前だけでも必ず失敗したとは思わんが、伯爵家の内情などまるで知らんお前では解決するのに時間はかかっただろうな」
「……、確かに」
「ところがお前は私と組んだ」
「これで相手の鼻を明かせるってわけですね! ざまーみろだ。ところで斡旋所には何をしに?」
「カメラの映像が見たい」
「カメラって防犯カメラですか?」
「そうだ、斡旋所の周囲に仕掛けてあるはずだ」
「そんなものありましたっけ?」
「あのマスターを甘く見るなよ。百戦錬磨の強者だぞ」
「えーまさか。ぼんやりした親父にしか見えませんよ」
「そこが強者の怖いところだ。さっきのベルモント氏にしてもそうだ」
「え? あの誠実そうな老人が?」
「誠実なのは伯爵家の人間に対してだけだろう。正直あの男とやり合うことになったら勝てる自信は無いぞ」
「少佐があの老人に?」
「あの老人、恐らく実行部隊の長だろう」
「ま、まさか」
「今回の事件の首謀者ではないにせよ、命令をうけて実際に動いたのはあの老人自身か少なくとも手の者と見て間違いない」
「そんな、それじゃあソフィア様は騙されてるってことですか?」
「そう言ってやるな、彼らも辛い立場なんだろう。すまじきものは宮仕えと言ってな、お前には縁が無さそうだが」
「へいへい。どうせあたしには縁がありませんよ。でも今までの話をまとめると。爆弾騒動の切っ掛けになったのは人形の紛失事件。そして指示したのは伯爵で、実行したのはベルモント氏。って事であってます?」
「大筋はな。だが伯爵以外にもう一人命令を下せる者がいる」
「もう一人って、伯爵とソフィア様以外……夫人? だって夫人はソフィア様の実の母親でしょ? なんで娘の人形探しを邪魔する必要があるんです?」
「人形を盗んだのは誰か、という話になるな」
「まさか、娘の人形を盗んだ? どうして? 金持ちなんだから宝石を売り飛ばしたいってわけでもないでしょ? それとも実は伯爵家にはお金が……いやいやいや、伯爵も夫人も呪いのことは知ってるわけですから、そんなことするわけないし」
「お前も大分事情が飲み込めてきたようだな」
「飲み込めたって。俺はそんなことはないだろうって、否定してるんですよ?」
「次のステップに進むぞ。お前、監視カメラを知ってるな」
「そりゃあ知ってますけど、どうしたんです急に?」
「伯爵家クラスになると監視カメラに死角など無い。それこそ使用人の寝室からシャワー室、トイレまで写されていると思え」
「それじゃあプライバシーなんて無いじゃないですか」
「そういうことだ。もちろん本人同意の上でだぞ。契約条件に入っているはずだ」
「うーん、それが判っていても勤めたいものなんですかねー」
「給料は良いし箔が付くからな。代々仕えている者達にとっては他に選択肢も無いだろうしな」
「しかし、それだけカメラに写されてると知っていれば、盗みを働こうとは思わないでしょうね」
「ああ、それに今回の事件はソフィア様が自室を離れたわずか数時間の事だ。アリバイなど直ぐに判ってしまう」
「なるほど」
「他国のスパイが伯爵家の防犯設備を破ったとも考えられなくはないが、それで屋敷から持ち出すことも出来ない人形一個盗んで終わりか? 伯爵の命を狙うとか他に使い道があるだろう」
「そりゃそうですね。防犯設備を強化されたらおしまいですし、奥の手ってのはいざって時に使うから効果があるもんですからね」
「そう言う事だ。わざわざ相手に防犯設備の見直しをさせるような真似はすまいよ」
「そうすると残るのは?」
「最初からカメラに写らない者達。この場合は伯爵家の三人+ベルモント氏くらいだろうな」
「カメラに写らない?」
「正確に言えば写ってはいる。しかし普通にモニターを見たり再生しても姿を確認することは出来ないということだ」
「どういうことなんです?」
「伯爵家の者が今どこにいて、どういう行動を取っているのか、使用人達に知られずに自由に動くためだ」
「使用人のトイレの中まで覗いといて、自分たちはがっちりガードするわけですか。金持ちってのはまったく」
「別に伯爵家の人間がモニターを覗くわけではあるまい。それにそう言う場所のチェックは同性がするだろうしな。第一、伯爵の秘密を使用人が知ったらお互い不幸になるだろ?」
想像を巡らせてみる。確かに色々不都合がありそうだ。
「それはあるかもしれませんね。でもそれだと万が一伯爵家の人間が誘拐されたりすると困りませんか? せっかくカメラがあるのに写らないんじゃ」
「そこでフェアリーモードというのがある」
「フェアリーモード?」
「普段は見えない者が見えるようになる設定だ。もっとも使用人の間ではゴーストモードと呼ばれることが多いらしいがな」
「フェアリーにゴーストね、どっちも関わり合いたくないですな。でも、ちょっと待って下さい。てことは、今回の事件。そのフェアリーだかゴーストだかの設定にすれば解決ってことですか?」
「ソフィア様の部屋の中にまでカメラが仕掛けてあるとは思えんが、少なくとも部屋の前の廊下には設置してあるだろう。それを見れば該当の時間に、誰が部屋に入って出ていったのかはすぐ判るだろうな」
「だとしたら、なんでわざわざスイーパーに依頼するんです? 自分たちで解決できるじゃないですか」
「知らないからだろう」
「知らないって何を?」
「屋敷の中が至る所、カメラで監視されていることをさ」
「ソフィア様が……って事、です?」
「そうだ。使用人の寝室やシャワー室、はてはトイレの中まで監視しているなんて、あの令嬢が知っていると思うか?」
「そういう下世話な話をソフィア様にする者はいないって事ですか」
「ソフィア様が当主にでもなられれば話は別だが、今の時点でお話ししても害はあっても利はあるまい」
「害と言うと?」
「そんな事はおやめなさい! とでも言われたらどうする? 命令を無視するか? それとも言われるままに屋敷のカメラを取り外すか? 警備体制がぼろぼろになるぞ」
「うーん、あの令嬢なら言いだしそうな気もしますね。家宝の人形よりも使用人の命を優先させたくらいですし。あ、でもベルモント氏がいるじゃないですか。今回の依頼だってベルモント氏経由で出てるんだし、彼が説明すれば」
「もちろん彼には全て判っているさ。だがいったい何と説明するんだ? 人形を盗んだのはあなたのご両親のどちらかに違い有りません。フェアリーモードで現場を押さえましょう。とでも言うのか?」
「そんな露骨な言い方はしないでしょうけど、うーん」
「ベルモント氏にすれば、カメラの映像をチェックした時点で、自分とソフィア様を除けば該当者が二人しかいないことは承知だ。しかしそれをソフィア様に告げることは出来ない。そんなことをすれば伯爵と夫人に対する背信行為だからな。かと言ってそれを説明できない以上、ソフィア様が私に依頼を出すことを止めることも出来ない。だから自分で依頼を出しておきながら同時にその妨害もするという茶番を演じたわけさ」
「うーん、そうだとするとなんだか彼が哀れに思えますね」
「恐らく時間稼ぎをしている間に伯爵と夫人に状況を説明して、人形を戻すなりソフィア様に事情を説明してもらうつもりだったんだろうな」
「つもりだった?」
「人形が消えたのは五日前だとおっしゃっていただろう。その間に解決していないと言うことは」
「うまくいかなかったと?」
「どうだろうな。一応多少の時間的余裕を与えるために、今日でなく明日伺うと伝えたわけだ」
「ああ、そういう理由だったんですか」
「ベルモント氏にこちらの意志は通じただろうから、今日のうちにもう一度話してもらって。うまくいけば明日お屋敷に到着した時点で既に解決済み、となるかもしれん」
「なんだか微妙な仕事っていうか、仕事した気分じゃないですね」
「上流階級の事件というのは案外こういう事が多い。元々防犯設備はしっかりしてるから外部犯の可能性は低いし、息子が家宝の品を持ち出して売っぱらったとか、亭主が浮気相手にプレゼントしたとかな。本人達に罪の意識は無かったり計画的でもないから直ぐにばれてしまう」
「なんだか今まで俺がかかわってきた仕事とはずいぶん違う感じですね」
「だろうな。荒事より事件を穏やかに解決する。できれば事件そのものがなかった事にする、そのくらいの心がけで丁度良い」
「事件をなかったことに? そんな事できるんですか?」
「考えてもみろ。今回の事件だって、仮に夫人が人形を持ち出したとしてどこが事件なんだ? 母親が娘の人形を黙って持ち出しました。で逮捕されるか? それにこの件は警察に連絡したわけでも無い。スイーパーに探してくれと依頼しただけだ。人形が無事見つかればあとは家族の問題。公にする必要など、なにもないだろう?」
「確かにそういう言い方をすれば事件じゃないですね。うちの親も俺に黙って何か持ってくなんてしょっちゅうでしたし」
「逆じゃないのか? お前が親の金を持ち出したとか」
「え? やだなー、そんなことは……数えるくらいですよ。でも人形盗難の方はそれでいいとして、爆破事件の方はそうはいかんでしょう? 大したこと無いとはいえ多少の被害はあったでしょうからね。軍警察も出張ってましたし」
「それは微妙な話と言えば微妙だな。もし伯爵家が指示を出したと言えばそれはそれで片付くが」
「と言うと?」
「この辺一帯は伯爵家の所領だからな。気に入らない家があったから吹き飛ばしたと言われれば誰も逆らえんよ。軍警察自体、伯爵の配下なんだし」
「そりゃあ、また強引な話ですね」
「まあな。戦争中でもあるまいし、邪魔な家を爆破した。では民衆に不安が広がるだろうから、知り合いのマスターを驚かそうと思ったら火薬が多すぎて騒ぎになってしまった。とでも言って賠償金を多めに包むくらいが落としどころかな」
「そんなもんで片付くんですかね?」
「伯爵家は常連客だと言っていたし、金額次第で治まるところに治まるだろうよ。ともかくそう言うことだから、お前もこの件を誰かに話したりするなよ。噂が広まったりしたら信用台無しだからな」
「了解しました。もしかして、今までの説明って俺に喋らせないために?」
「ああ。単に誰にも言うな。とだけ言われると逆に喋りたくなるだろう? だから噛んで含むように説明してやったんだ、理解したか?」
「よーっく判りました。しかしあれですね、現場にさえ行っていないのに、よく色々判っちゃうもんですね」
「判ってなどいないさ。可能性の一つを示唆したにすぎん。そう考えればピースが埋まる。それだけのことだ」
「そういうもんなんですか」
「そういうものだ。もちろん別の可能性だってある」
「例えば?」
「今回の事件、全てを仕組んだのはソフィア様」
驚いてハンドルを切り損ねる。じろりと少佐に睨まれる。
「ま、まさかそんなこと!」
「人形が無くなったこと自体狂言だったとしたら?」
「そんな! だって動機がないでしょう?」
「今の伯爵が実の父親でないことは恐らくご存じだろう」
「まあ、もう子供じゃないんだし。知らされているでしょうね」
「その男を父と呼び、その男が伯爵と呼ばれることに我慢が出来なくなったとしたら?」
エディ、黙り込んでしまう。
「このまま何事もなければ、今の伯爵はあと十年以上在位し続ける可能性だってあるんだぞ」
「しかし、だからといって。あのお姫様がそんな大胆な行動が取れるようには見えませんでしたけど」
「ベルモント氏に特殊な英才教育を受けて育ったとしたら?」
「特殊な英才教育?」
「例えば、人心掌握術。お前、あのお姫様に心を動かされなかったか? この人の役に立ちたいとか」
「そりゃー、あれだけ可憐な少女を見れば男なら誰だって」
「私もそう思った」
「え、少佐も?」
「ああ、この少女の力になりたいとな」
「だったらそれでいいじゃないですか、小難しく考えなくても」
「本当にそれで良いのか? 結果的に何の罪もない伯爵を陥れることになってもそう言えるか? この少女のためなら構わないと」
「そ、それは」
「ま、ソフィア様が仕組んだとするなら伯爵が潔白と言うことはないだろうがな」
「どういうことです?」
「狂言を仕組んだ目的は、外部の我々を招き入れること。そして監視カメラの映像を確認することだろう」
しばらく考えて首をひねる。
「すいません、判りません」
「自分が屋敷を留守にした数時間の間に何かあった。それを確認するためにはフェアリーモードを使うしかない。しかし理由も無しに使うわけにも行かない。だから人形が消えたことにして我々を雇い、更に斡旋所で爆弾騒ぎを起こし事件に裏があるように思わせる。そして我々の口からフェアリーモードを使うよう助言させる。ま、こういった筋書きかな」
「さっきまでの話とまるで違いますね」
「そうだな」
「どっちなんです?」
「知らんよ。可能性の話だと言っただろう。どっちも外れてるかもしれん。使用人が盗んだシナリオだって考えられる。聞きたいか?」
「無責任だなー」
「だから可能性の話だと言ってるだろう。可能性に責任など取れるか」
「うーん困ったな。俺はどうすれば」
「別に困ることはないだろう。色々な可能性があり、誰も信用できない。これが基本だろうが。それとも何か、お前はスイーパーの仕事をするとき最初から犯人を決めてかかってるのか?」
「いえ。どちらかというと何も決めてないって言うか。襲ってきた奴をぶちのめせばなんとかなると」
「つくづく、上流階級の仕事に向いて無さそうだな。襲ってきたのがドラ息子だった場合、最悪慰謝料の支払いがとんでもないことになるぞ」
「うへっ。確かに向いてないかもしれませんね」
そうこうしているうちに斡旋所に到着する。
「よし、そこに止めろ」
「斡旋所のカメラなんか確認する意味があるんですか?」
「あのなあ、推理は推理。物的証拠を集めずにどうするつもりだ? 私がこう思うからあなたが犯人でしょう! とでも言うのか?」
「ああ、いやそういう事じゃなくて。証拠が写ってるのかなーなんて」
「それを調べるために来たんだろう」
「そうでした。車ここに止めますね」
(危ない危ない。少佐が見てきたように話すもんだから、こっちはもう事件が解決した様な錯覚に陥っていた)
二人は車を降り、斡旋所に向かう。
Posted by Syousa Karas at 06:03│Comments(0)
│小説